NOVEMBER RAIN  2












彼は話して見るととてもさっぱりとした性格で、自分の知るゲイ達とは随分違うな とシャアは思った。
幼さを感じさせる容姿とは相俟って、雰囲気は大人びてとても落ち着いている。
シャアは彼に好感を持った。


「何故こういう仕事をしている?」


つい、酒で口が軽くなったのかそんなことを聞いた。
だが、少し不思議に思っていた。彼はこんな仕事をするタイプの人間には見えない。
青年は、会話して分かったのだが随分と学のある人間だったし、
ちょっとした仕草や言葉使いが育ちの良さを垣間見せる。
しかし答えは、シャアの予想を裏切ってひどくシンプルなものだっだ。


「金以外に理由は無いだろ?こんな仕事の。」


彼はシャアの立ち入った質問にも笑って答え、グラスを傾ける。
シャアも手元のブランデーをつられるように飲み干すと、金か、と、ふと疑問が頭をよぎった。
・・・・そういえば、ガルマは彼にいったい幾ら支払ったのだろう?
彼も、自分の事を高いと言っていたな・・・。


「失礼に感じるのなら忘れてほしいのだが、友人達はいくらで君に頼んだんだい?」


彼は少し困った笑みを零してから、空のグラスにブランデーをなみなみと注いだ
彼は随分と酒を飲んでいるにも関わらず、顔色一つ変えずにケロリとしている。
・・・ザルなのだろうか?


「4千ドル」
「え?」
「一晩お相手して4千ドル」
「・・・それは、また・・・。」


シャアは驚いた。女の高級娼婦並ではないか!彼は男で、女に比べれば需要も値段も格段に低いはずなのに。
ガルマの言った意味がシャアに今初めて解った。・・・彼は凄く高いのだ。
多分彼は、この辺で一番の最高級男娼なのだろう。


「な?高いだろ?一晩のエスコート代がソレなんだ。・・・物好きが多いよな。」
まだ驚きを隠せない私に、彼は苦笑いを見せながら言葉を続けた
「さすがに年配の人が多いけどね。だから貴方が若くって驚いたし・・・あっ、」


青年が何かに気を取られて声をあげたので、シャアは彼の視線の先を見た。
あるのは日付入りの時計で、たった今12時を刻んだところだった。

「何か用事かね?」

何か予定でも思い出したのだろうか?彼と別れてしまうのがなんだか淋しい気がした。
青年を見やると、複雑で曖昧な表情をしている。
再度シャアは「どうした?」と訪ねる。・・・もう少しここにいて欲しいのだが。そう思う


「誕生日なんだ・・・」
「・・・?」
「11月4日。・・・俺の誕生日なんだ。で、今22になった。」


おどけた表情で答えた彼を シャアは意外そうに見た
彼はとても洗練された雰囲気だ。恋人の一人や二人はいるだろう。
どこかアンニュイな微笑みを浮かべる彼は、男にもだろうが、女もきっとほっておかない。
今頃さぞかし恋人がヤキモキして彼の帰りを待ちわびていることだろう。


「それは、おめでとう。 しかし、誕生日まで仕事かい?恋人が怒るだろう、これから逢いに行くのかい?」
「恋人??ああ、大丈夫。だって今初めて気づいたんだぜ?誕生日だって。恋人もいないよ。」


毎日に追われていてね、そう苦そうに呟く彼を見て シャアは今日の荷物を思い出す。
部屋に無言で取りに行き、彼に花束を差し出した。


「周りもので悪いのだがね、これしかなかった。 バースデイおめでとう」


花は、自分によく贈られる大輪の赤いバラ。
きっと彼には、赤よりも白くて清楚な感じの花の方が似合うだろうなとシャアは思った
青年の隣へ腰掛け花を渡せばありがとうとほほえんで受け取り、
彼はバラの花束を抱え、目を瞑って匂いを楽しんだ。



その瞬間、 見惚れてしまった  ―――― 彼の横顔に。



薔薇の花に顔を寄せる彼の顔立ちは、整っているが特別に美しいと言う訳では無いはずだ。
それこそシャアのいる世界には美しい顔立ちや個性的な人間は掃いて捨てる程いる。
・・・何と言うのだろう、とても引きつけられてしまったのだ。目を瞑る彼がとても美しかった。

いつかの撮影チーフが言った言葉が頭をよぎる
”モデルは顔や体じゃない、オーラだ。生きた人生の匂いだ!” と。
シャアはその言葉がぴったりだと思った。引き寄せられるのだ、彼に魂を。
強烈なフェロモンを発するモデル達より何より、鮮烈に、より鮮やかに
彼は人の心を引きつける。・・・虫を呼ぶ花の香りのごとく。

青年は花束から一本だけ、まだ咲き誇らない控え目のバラを抜き取り
同じように匂いを楽しんで、シャアの方をチラリと見た。
琥珀色の瞳が不思議な色合いを見せてシャアを伺う。
その様に、シャアははっきりと自分が欲情しているのを感じた。・・・心が浮き足だった。


青年にはシャアの心が手に取るように分かるのか、横目でシャアを見ながら悪戯っぽく笑って
「キスでも試してみる?」と囁いた。
シャアは自分がそんなに物欲し気な顔で彼を見ていたのかと思うと、恥ずかしさで耳まで熱くなったが
彼に頷いて見せる。 少し興味がわいたのだ。

彼はソロリと立ち上がってソファに膝を付き、シャアと向かい合う。
そのスローで慎重さを感じる身のこなしが、服の色も伴ってシャアに黒猫を連想させた。


「金髪さん?貴方の目はとても綺麗だね。僕は大好きだけど 少し目を閉じてくれるかな?」


なぜ? とシャアは返す。もっと彼の表情を見ていたい


「キスの間は目を瞑るものだよ?・・・秘密を隠しておくためにね」


目を瞑って彼のキスを待つと、柔らかな感触が口元をかすめた。










彼のキスはとても気持ちが良かった。










最初ペロリと唇を舐めたかと思うと、柔らかい感触が何度も触れては離れ
シャアは離れる度に切望を募らせた。
もっとくっついていたいと心が焦れだした頃、柔らかな舌がソロリと入ってきてシャアの舌先を快く擽る。
頭が快感に痺れて、もっと激しいキスをとシャアが舌を伸ばせば
するりとかわされてシャアの唇の内側を丹念になぶった。


焦らされている
分かっていても打開策など無い。彼にさんざん煽られて欲望を募らせる他は無かった。


口付けを続けながら青年の腕が首に絡まって、片手でシャアの金の髪をいじった
ソファへと付いていた膝はいつの間にか外され、今 青年の体は、シャアの膝上にある。

シャアはやっと青年に舌を絡ませて、すり合わせたり強く吸い合ったりと快感を深めるのに忙しなく
彼の体が上に乗ったのにも気付かなかった。だが、本能なのか、シャアの欲望の象徴はその硬さで
膝上の青年の太股や尻の間の柔らかな弾力を堪能し、知らずお互いの興奮を高めていた。



キスは激しさを増して、口の端を唾液が伝い 快感の深さを知らしめる。
シャアは自分の羽織っていたバスローブや、相手のジーンズ地が下半身にうっとうしく感じて、
そこで初めて気がついた。 今していた自分の行動を・・・


真っ赤になって硬直しているシャアに気付いて、青年が口を離す
先程まで絡め合っていた唾液が細い銀の糸を一瞬だけ見せて消えていった。


青年は袖で軽く口元を拭い、じっとシャアを見つめた。
シャアは今まで綴っていた興奮と、自身を彼に擦りつけていた羞恥に心が何処かに飛んでいて
口元を濡らしたままボンヤリと荒い呼吸を繰り返している。


青年はそんなシャアの情欲に染まった青い瞳を”美しいな”と思い
最後の一押しを彼にしてあげる事にした。


彼の体に腕を絡めて そっと耳に囁きかける。
手にはまだ一輪のバラが握られていた


「金髪さん?お花のお礼に僕を抱いて欲しいな」


ピクリと肩を震わせてシャアは青年を見た ーー欲望は止まりそうもない。


「シャアだ そう呼んで欲しい。 ・・・君の名は?」
「アムロ」

二人はもう一度舌を絡めて ソファの上で熱を高め合った。












ガンダムの小説で中々衝撃的だったのはアムロがセイラさんの事を”金髪さん”と呼んでいたこと!
そう!コレをシャア相手に言わせたかったのだっ!わんはっはっはっはぁ!
私はモデル業その他のことなど良く知りませんが、ひょんな事でお話を聞くことが出来た某雑誌の撮影チーフが
上のような事をおっしゃっていたので使わせていただきましたー!
それからいくらなんでも一晩4千ドルはねーだろーとは思ったのですが、アメリカに留学していた友人(男)いわく
高級コールガールで、この2倍3倍の方もいらっしゃった(まあ女性ですがね)そうなのです。
んで、ムチャクチャ承知でこの価格に。(でないと後々の設定で、ん??と引っかかる部分があったもんで。)
まあ、うそんこばっかのダメ小説ですよ。流していただけたら嬉しいです。


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