星を愛する人たち    









「了解しました。プレートは見つけ次第破棄します。・・・・・はい、・・・はい では、ミッションに入り次第随時連絡いたします。・・・・それでは」

通信を終えてぐったり艦長席に座り込んだブライトにサエグサが声を掛けた。

「ブライト艦長、何か今回ミョーにうるさくありませんか?」
「・・・・よく分からんが神経質になっていることは確かだな。たかがデブリの破棄に作業工程を連絡しろなどと・・・何かあるのか?」
それにトーレスが答える
「いえ、特には・・。でも、さっきの連邦のお偉いさんですよね?いくら今回の依頼が連邦からであっても、わざわざ直接出てくるなんておかしいですよね?・・・大丈夫かな、大尉達」
「分からんもんを悩んでいても仕方が無いしな・・、よし、トーレス。そろそろ目的地だ。これよりデブリ回収のミッションを始める。奴らに知らせろ。サエグサは随時作業工程を上に連絡!」
「「はいっ」」




***





『アムロ大尉、もうすぐ目的地に着きます。準備よろしいですか?』
『分かった。今から向かう』

ドックから戻って来た俺はアムロ大尉に連れられて再びノーマルスーツに着替えているところだった。
アムロ大尉がトーレスに通信で返事を返し、俺を小型作業船へといざなう。

「カミーユ、酔い止めは飲んだか?」
「はい、一応飲んどきました!」

俺にとって宇宙空間は慣れたものだったが、用心に越したことはない
なにせ殆どノーマルスーツ一つで、地球が目一杯望める場所での作業なのだ。
もしかしたら気分が悪くなるかも知れないし、今朝のブライト艦長のようにはなりたくない。(彼が吐いたのは、きっと船酔いが原因ではないが)
アムロ大尉は俺の考えている事が分かったのかクスリと笑った。

「良い心がけだね。じゃ、行こうか。 ・・シャ、 ・・・こほんっ、 ではクワトロ大尉、サポートを頼むな」
「ああ、任せておきたまえ。カミーユ、何かあれば私がフォローする。心配しなくていいぞ。」
「はい、よろしくお願いします。」

これから乗る作業船の古さにこっそりため息を付きながらクワトロ大尉に返事をした。




小型作業船(なんと、人がむき出しのまま乗り込むタイプ。骨組みに推進剤とパネル、ライトぐらいしか装備されてないと俺は見た・・・マジかよ・・・)に乗り
出向に向けて細かな作業をするアムロ大尉をぼんやりと眺めた。
ファーストニュータイプ、人類が宇宙へ出た証と希望の具現化、戦争に多大な影響力を及ぼす存在・・・・だけど、・・だから、籠の鳥・・・
でも、クワトロ大尉にあんな風に言われたけれど、俺にはどうにも実感が湧かない。
・・・・これが、あの、アムロ・レイ?若干15歳でMSに乗り込み、名だたる兵士を次々に破っていった、連戦連勝の猛者??・・連邦の象徴?・・・絶対無敵の英雄???
俺には彼が、うだつの上がらなそうな童顔の小男にしか見えなかった。


『アムロ、カミーユ、聞こえるか?』
「ああ、聞こえている。どうしたブライト」
回線にブライト艦長の声が入り、アムロ大尉が俺にも声が聞こえているのを確かめてから話し出した。
「どうも今回の作業に連邦が神経質になっている節がある。十分気をつけてくれ」
「了解、・・確か今回のデブリはただの記念プレートだったよな、・・何かあるのか?」
「それが分からない。だが、上からの指示で作業を逐一報告することになった」
「記念プレート?」
俺は初めて聞く単語に口を挟んだ
それにアムロ大尉が”あ、言って無かったっけ?”と舌を出し、ブライト艦長が”アムロ”と苦い声を出した。それを聞いていたトーレスが通信に割り込んで俺に説明をしてくれる

「今回のデブリは、20年前に地球のマナンガの平和を願って打ち上げられた記念プレートなんだ。それが衛星の軌道にかさなちゃったから、廃棄命令を受けたというわけだ。」
「え?でもそれって平和を願って打ち上げられた物なんでしょう?回収しないんですか?」
「上からの命令。それにプレートじゃ回収してもお金になんないだろ?だから地球に向けて落として燃やしちゃうのが今回のミッション。分かったか?」

眉を顰めて黙る俺に、『そろそろ出るぞ?いいかいカミーユ』とアムロ大尉にと告げられて了解を伝える。
だけど、俺は納得なんかしちゃいなかった。
人には、譲れない気持ちってヤツがあるもんなんだ!



***


「大丈夫かな?彼は・・・」
クワトロがブライトにそう声を掛けると彼は胃を痛そうにさすった
「仕方ないだろ、彼には戦力になってもらわなきゃ困る。それにアナハイムじゃ優秀だったと聞いた。手放したく無いほどにとな」
「まあ、アムロが付いているのだからと思うのだが、なんだか彼はカツ君と似ていると思ってね。  ・・・最近の若者は、皆、ああなのだろうか?」
「知らん!だが、カミーユとカツは同い年だからな。・・・そう言う大尉だって最初アムロに随分突っかかっていたじゃありませんか」
「そうだったかね?」
クワトロが肩を竦めて艦長にとぼけて見せた



***


作業船用の格納庫がゆっくりと口を開き俺たちの船をそっとはきだす
視界一杯に広がる地球の青 ・・・なんだか吸い込まれそうだ
だんだん離れていくアーガマに、俺はちょっと心細くなってアムロ大尉を見る
大尉は何所か遠くを見ていた視線を戻して、俺にはにかんだような笑みを見せた

この人って、へらへらへらへら笑ってばっかりだ!
なぜだか分からないイライラに爪を噛みたくなって、それを出来ないのに気づいて舌打ちをした。
気を紛らわそうとアムロ大尉と話をする。


「大尉、プレートの回収って出来ないんですか?だって、平和の象徴を廃棄だなんてあんまりですよ!」
「う〜ん、でも上からの命令だしね・・。お金になんないし・・」
「だからって!こういうのって心が無いと思いませんか!?」
「でも、衛星も大事だよ。それこそ衝突なんてしたら、またデブリが増えちゃうしね」
「それはっ、・・・そうですけど・・。 ・・・・・衛星ってどんなヤツなんです?」
「ん? ダリオONE−04。」
「え?・・・それって確か、・・・・・連邦の軍事衛星じゃありませんでしたか??」
「そ。 宇宙から各国を見張っているヤツ。 だからどっかの国が軍備増強しようとしても、すぐに連邦が駆けつけるだろ?」
「じゃあ、比べるまでも無いじゃありませんか!!・・軍事衛星と平和の象徴ですよ!?どっちが大事かなんて分かり切ったことでしょ!!」
「カミーユ。これは仕事なんだ。ここは軍隊で、これは命令だ。・・分かり切った事だろう?」

俺はその言葉にぶちんっと何かが切れた。
この縞パン男は人の心の大事さなんて一つも分かっちゃいないんだ!!
目の前がカーッと熱くなって怒りのままに口を開いた

「仕事?これが仕事ですって??軍隊のクセにゴミを拾うだけの、デブリ艦隊なんて呼ばれるようなコレが!!」
その時思いっきり足を踏みならしたせいで、小型船の停止レバーに足が引っかかった。
緩やかに回転を始める船に大尉が放り出されて宙に舞う

「うわっ!」
「しまった!」

俺は回転する船に掴まりながらアムロ大尉に手を伸ばす
だが大尉は器用にバランスを立て直すと、船の後方にあるパネルに取り付き小型船を安定させる。
『アムロ、大丈夫か?』
『大丈夫だ、問題はない。このまま続ける』
『アムロ、私だ。サポートに入るか?』
『いや、いい。貴方はそのまま待機していてくれ』
その合間にブリッジとクワトロ大尉とののやり取りが聞こえたが俺の気持ちは萎えちゃいなかった。


「こんな仕事なんてやめちまえばいいんだ!どうせ飼い殺しになってるだけなのに、わざわざ連邦の軍事衛星を守ってやる必要なんて無いんだ!!」
「なん・・・だとぉ!?」
「何がニュータイプだ!何が人類の躍進だ!!あんたなんて、ただの軍にへりくだった見世物以外の何者でもないんだ!!」
「 ――――――何も知らないヤツが 偉そうに!!!」

アムロ大尉の怒鳴り声が聞こえたと同時に俺の視界が回り出した。
右半身に鈍い痛みがあるのに気づいて、俺は彼に蹴り出されたのだと知る
だが痛みよりも、当てもなく浮遊する感覚が恐ろしい。
・・・・まるで、目の前に迫る大気の底に引き込まれるようだ

「うわっ うわあっ!お、落ちる! 落っこちる!!」
「少しは君も重力に落ちていく感覚を味わえば良いんだ。」

彼の底冷えする声に少しの冷静を取り戻して体制を立て直す。
船に固定してあるワイヤーを巻き戻す操作をしながらアムロ大尉に怒鳴り返した

「ニュータイプのクセに戦争を助長する物を守って平和の象徴を廃棄するだなんておかしすぎますよ!!!!!
ニュータイプって、人を理解しあえる生き物なんでしょ??
戦争をしなくていい人類なんでしょ!!?平和への希望なんでしょ!!?」
「そんな事誰が言った!!!?」
「ジオン・ダイクン、スペースノイドの父、ジオン・ダイクンに決まってる!!あなたはその、ファースト・ニュータイプって連邦のお墨付きまでもらって、存在しているじゃありませんか!!?」
「逢ったこともないその男に何故俺のことが分かる!!ニュータイプが平和の希望だって?笑わせる!その平和祈願のプレートだって、未だにマナンガは内乱が続いているじゃないか!!
軍事衛星だって一つ無くなった所で何も変わりはしないさ!新しいのが出来るだけだ!!」
「そんな事は分かっているさ!でも、そう言うのを大事にしよう、大切に作っていこうって気持ちが大事なんじゃ無いんですか!?ニュータイプだって貴方以外はそうかもしれないじゃありませんか!!!」
「何も知らずによく言うな、そのニュータイプだってな、人間なんだよ!!飯だって食うし、性欲だって湧く、死にたくないから生きようと思うし、その為に人殺しだってする!!」

その言葉にはっとして、俺は俯いた。
アムロ大尉は続けた

「俺はただ、死にたくなかっただけさ。だから正に死にものぐるいで、殺して殺して殺しまくった。ただ、ただ、ひたすらにね。やらなきゃ殺されるだけ。・・・それが”戦争”なんだよ、」

俺は船に手を掛けて座席にやっとたどり着いた
アムロ大尉の乾いた笑い声が聞こえる
「それが、生き残ったら英雄騒ぎさ、しまいには殺しすぎたってんでニュータイプ扱い。あげく体中いじくり回されて、第二、第三の被害者だ。・・・7年前の地球の内乱はしっているか?」
アムロ大尉のどす黒い怒りが、通信回線の声を通して伝わってくる。
俺は彼を振り向けずにそのままうなずいた
「俺のデータを元にして、人工的なニュータイプが作られた。強化人間なんて呼ばれていたよ。沢山の投薬で狂ったり死んだりした者が続出したにもかかわらず、軍は研究を続けた。
・・・何故だか分かるかい?沢山人が殺せるからさ!!ニュータイプは兵器でしかありえないのさ、今の世の中じゃ・・・」
「そんなことっ・・・」
「コンプリートだ。作業に入る」

遮られた言葉に彼を見れば、いつの間にか側に来ていた物体に流れていった。
それに俺は、これが記念プレートなんだと悟りライトを当てた・・・が・・

「アムロ大尉!!・・・コレ、おかしいです。 連邦のマークが入ってます。」
「そりゃそうさ、だってこれ連邦が打ち上げさせた物だもの。」
「・・・・え??・・・・だって??」
作業を鮮やかに続ける大尉を尻目に俺はプレートに書かれた文字を追った。


UC0073,マナンガの平和は地球連邦政府によってここに維持されたし。
自由と正義の橋頭堡とし 悪なる体制に対抗し・・・

な、なんだよコレ???・・・だって、だって・・

「随分と都合のいいことが書かれてるだろ?知ってると思うけどマナンガの紛争は連邦の内政干渉が切っ掛けだ。・・・そうか、だから連邦がぴりぴりしてたのか・・・。」
”いまさら俺がこんな事でうろたえる筈ないのになぁ”そう、アムロ大尉がわらった。

俺はプレートから目が離せなかった。
なんなんだ、コレが、平和の象徴??・・・だって、これはただの連邦の宣伝じゃないか。

「今頃、こんな物持ち帰れないよな。メディアが舌なめずりしそうだ。ま、連邦にいた俺が言える事じゃないけどね。・・・・ん?・・・・カミーユ?」


俺って、馬鹿だ・・こんなのの為に声を張り上げていたなんて・・・
・・俺って、馬鹿だ。連邦軍のプロパガンダに踊らされてこんなとこまで来て・・
いやに地球の青さが目にしみて、視界がぼやけた。

「すみませんでした。・・・・こんなの、とっとと落として下さい。」
「・・・・あのね、カミーユ。 君の仕事でもあるんだぞ? ・・・・まぁいいさ、そこで見ていてくれ。 YOU・COPY?」
「はい・・・分かりました・・・・・。」
大気の外側で、ボンヤリとしながらアムロ大尉の作業を眺めた。










                 


けんかのシーン入れたかったんですよ。
マナンガやらダリオやらはそのままってトコが恥ずかしいです
次で一区切りなのです はひ〜
連邦がぴりぴりしてたのは、コレを切っ掛けにアムロが連邦批判をメディアにするのでは?
とか懸念がわいたっちゅう事で。
連邦は彼に告白されちゃうと困る事が沢山なのですよ。


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