故人と友人・過去と現在(3) 「カノン…… お前、その格好はまずい。」 日課になっている教皇宮への道のりで俺はだいたい天蠍宮に寄り道をする訳だが(理由は察しろ) 顔を出した俺に言われた一言が、これ。 俺の法衣を見たミロが目を丸くして茶を一口。言いづらそうに、だが言って来た 「どこか変なところでもあるのか?」 袖を上げてみたり裾を眺めてみたりしたが特にこれといった所は見あたらないのだが。 首を捻る俺に、困ったような顔で考え込むミロ 一体どうしたというのだろうか 今の聖域は教皇代理にシャカ、補佐に俺、もう一人の補佐を(童虎除き)誰かが当番で当たるという3人ひと組の体制で舵を取ってる で、以前は聖衣着用が礼節だったのだが、少し前に黄金聖闘士も法衣で公に出る事に変えたらしい それにあの聖戦で黄金聖衣を幾つか失いもしたので、今では皆法衣で執務に当たっている (俺としてはやっと身に付けられた聖衣だったので少し残念に感じもした。…ほんの少しだが) なので今の俺達は平時と言うこともあるし、あのキンキラキンの聖衣ではなく法衣とかで仕事をしている。 だから今日の俺の格好もローブを着ているわけなのだが。 ミロは何かを言いあぐねながら茶を一口飲む ミロは茶の方が好きなようだが俺はやっぱり朝は濃厚なコーヒーだ。なのでミロに用意させたものに口を付けた (コレに奴は不満タラタラの様子だったが普通朝はコーヒーだろう?) ピタに色々挟みながら囓り付く間もミロが困ったように言いあぐねていたので、そこで俺は何が不味いかを察した アレだ 偽教皇をやっていた兄に瓜二つな俺が兄そっくりな格好をしてるのが不味いのだ。 だけどそれを言うと傷つくんじゃないかと、ミロは言いあぐねている訳だ。 …コイツはホントに妙なところで気を使う 「そんなに似ているのか、サガに」 「…分かっちゃったか、スマン。 …すごく、似てる…」 困った顔で俺をチラチラ見るミロはなんとも複雑な眼差し …………? そうか、俺と兄は一卵性だし、この格好だと余計意識してしまうのか 兄はミロの親代わりみたいなものだったし、ミロの記憶ではこんな格好で仕事してるのが多いのだろう 俺には鬼畜だったあのサガが、ミロを目に入れても痛くないくらいにかわいがっていたのを思い出す ミロも異常なくらいサガになついていたように思う 待て。 ………そんな親のようなサガにそっくりのこの俺が、 …子のように思っていたコイツを××する想像を毎日のようにしている訳か…。 はぁぁ… 凹む… 気持ちをごまかそうとサガのようにミロの頭を撫でてみた 「よしよし…よい子だな、ミロよ…」 「!!ちょっ…なっ、… それ、止めろよ……」 拗ねつつも抵抗しないミロ 何だよ クソッ …カワイイ。 ……襲うぞ? 今日の俺の法衣は今までの白いヤツをクリーニングに出したのでかっしりした紺に赤く抜かれた袖と襟のやつを着ている ミロの着ているローブとどことなく似ている。…おそろいみたいだな 今日はミロも当番補佐官なので一緒に朝食すませ教皇宮に行くのだが…さて、どうするか。 「で、どれくらい不味い?」 「とても、だ。実は前に着ていた奴もギクリとした。」 「!、…本当か?だが、とりあえず今日はこれで行くしかないな」 「…………………………」 「いまから手配して…急いでも2,3日が限界だろう」 因みにミロはいつものような暑苦しい黒衣のローブ。今日は飾りヒモと裾のヒラリとした布が深紅。 ミロはだいたい黒衣に赤をポイントに入れる法衣が多いのだが、しゃれっ気があるので手の込んだ刺繍やら 装飾品がゴテゴテしてるものやシルエットの異なるずるりと布を引きずるような物まで実にバリエーション豊か。 見ていてけっこう楽しい。 脱がせる想像をするともっと楽しい。 だけどあまり見ないのだ…教皇宮で 何故かミロは当番の順番が少ないような気がする。 ……いや、少ない。 他の奴らと比べても半分しか見てないような気が …なぜ? ローテーションは確かムウが組んだ筈だが とココまで考えてコーヒーをすするとさっきの話題に戻された 「やはり趣味が似るものなのか」 「? 何がだ?」 「服の趣味。それじゃあサガと勘違いされても文句が言えない。困った。」 「嫌なことを言うな…なぜお前が困る?」 「あ、すまん。そういう意味では無いんだ。…他には無いのか?カノン」 「無い。それに俺の趣味では無いぞ」 「…!? …そう、なのか?」 「ローブなぞ持ってなかったからな。2つとも神官が寄こしてきた物だ」 「そうか。 ………………………………」 奴は眉をしかめたままカップを持って考え込んだ。 どうした??何か空気が不穏だぞ、ミロ?? ちろっと俺を見たミロが雰囲気を変えてカップを置いた 「なあ、カノン 俺と身長あまり変わらないよな?」 「は!小僧吠えるな。俺のが断然高いに決まっているだろ!?」 「う、ウソを付け!ちょっとしか違わない筈だっ!」 ギャンとミロは吠えると俺の手を取って立ち上がった。 …ちょ、待てって!朝からこんな接触はNGだろうがっ!! だが俺の焦る心なぞ知らないミロは無邪気に背中にぴたっと身体をくっつけてきた…!止めろッ!じゃれるな!! …ま、まてっ……(泣) まだ、心の準備が……っ 「俺よりちょっと高いぐらいじゃないか…じゃあコッチは……」 「うっ… …おまえっ!?何をするいきなりっ!!」 「? 女じゃ有るまいし、…煩いぞカノン」 ミロが俺の身体に抱きついて腕を回してきた!? …あ、まて…まてッ!!…そ、そんな所に腕回すなって!!? 起っちまうから。 …お兄さん起っちゃうからッ!! …やめろっ! マジ触るなってっ!! イヤァッ!!(←嬉泣。笑) 何なんだ…!?この、朝から幸せいっぱいなシチュエーションは!?? やばいっ…幸せすぎて胸が苦しいっ!息が…ぐるじいっっ!!(←はち切れる嬉しさをポーカーフェイスに隠してますので) その時ミロが何か考え込みながら離れたのではぁはぁするのを見せずに済んだ 何か…耳が熱い。 俺は十代の女か!?と自分突っ込みに頭をぐわんぐわんさせてると… 部屋を出たミロが、手招き…? ああ、ピンクフィルターかかるから止めてくれ、それ。 「まだ時間大丈夫だよな…?カノン来いよ」 「なんだ?……そっちは………!!!!」 そっちは、 寝室… だよな… ……………………………………………。 何にもないって分かっているのに… 何を盛り上がってる、自分。 我が息子よ…どうにか堪えてくれ。頼むから。 「…いいのか?」 「? 何がだ?いいから来いって」 ミロは結構プライベートには立ち入らせないクチだ。 天蠍宮の私室がその最たるモノで 人を入れても手前にある応接間とダイニングくらい。 そこでもミロは異常なまでの警戒心を見せていた(本人は見せていないつもりだったようだが) 奥の私室には人を入れたのを俺は見たことがないし、興味を持たれるのを非常に嫌う傾向があるようだった 俺はその暗黙のルールを理解し守るとミロに態度で分からせたのでちょくちょくここに立ち入るのを許されたといった現状なのだ。 だから、つまりこれは…かなり親しくなったという証?…だな。 ちょっと…いや、かなり嬉しい。 ミロが開けた部屋はやはり寝室で… 俺のボルテージはメチャクチャ上がる。 …落ち付けっ自分よ 「すぐ済むから」 「別に、急いでない」 遅れても別にかまわないだろ今日の仕事は……ああっ!! 何を考えて何口ばしっている、自分ッッ!? そうじゃないだろうがッ!! 冷静になろうと部屋を分析してみる。(すーはー)←深呼吸 …ミロの寝室はかなり広い。華美でもなければ質素でもない。 まぁ、キングサイズのベッドは豪華といえば豪華だ。…ちなみに俺の部屋のは普通にダブル 俺らは身体がでかいからな。はい。変な想像はしない!(←自分に言い聞かせてます) 意外な事にぶ厚い本が至る所に乱雑に積み上げられている。げ、タイトルの意味が分からん!?専門書ばかりだ 「ほら、カノンこっちに立て」 「???」 立たされたのはでかい鏡の前。壁側一面クローゼットでその扉の1つが姿見に。 ミロは大きなクローゼットの半分を開け放つ。するとずらりとお目見えした黒い物 お前、黒が好きなのか?私服はそんなこと無かったがな…寧ろ黒なんかめったに着ないじゃないか …と、よく見て見れば黒いの物全て法衣だった めちゃくちゃ衣装持ちなのだな、ミロよ あ、そういえば他の奴らも色々とっかえひっかえ着ていたな ミロは片隅にかろうじてあった黒じゃないローブを引っ張り出すとベッドの上に並べた 出したのは4着。 後は全部黒っぽかった。出したのをとりあえずベッドに置いて一着を俺に手渡す 「体型もそんなに変わらんし…いけると思うのだが」 (だからさっき抱きついてきたのか…まぁ、…オイシかったな …うん。おいしかった) 「ほら、早く着ろ」 「は!?今…ここで!?」 「それ以外無いだろう?その格好は本当に不味い」 「分かった、…だがこれすごい凝った作りだな…いいのか?かなり高そうだが。それにすーすーしそうだ」 「昔ディーテ…ああ、えーとピスケス?にもらったんだ。お前に似合う、多分。」 広げてみると全体的に極薄い水色…上品だ。 たっぷりと前までドレープがまわったマントは裾に複雑な縁取りが刺繍されており 対照的にツーピースは身体のラインを厭み無く包み込むだろう 「いいのかそんな物を?むしろこれはお前に凄く似合うと思う。他のをよこせ」 「いいんだ。どうせ着ないから…他のもカノンにやる。後で届けさせるよ」 ………………………まさか………な 何故? や いい、気を使うな 等が出そうになったが言葉を飲み込む ミロがそれを言ってくれるな という眼差しだった だからとりあえずそれを着ようと思ったのだが…今度はなんとなく脱ぐのが恥ずかしいくなった ? ? ? どうした?俺、…同じ男だろうがっ! 「何?シャカのように着替えさせて欲しいとかか?」 「は?アイツそうなのか??違う。遠慮する。何だ…くそ、〜〜〜 …見るな、変態っ!」 「ヘンタッ…おまっ…!…わわわ、分かった。見ないから早く着替えろ?」 待てッ!?お前まで照れるから余計こっちが恥ずかしいわッ!!! しかもッミロ…!ベッドに突っ伏してっっっっ!!止めろっ! お前俺を殺すつもりだろうッ!?俺を悶え殺すつもりだろうッッ!?(←パニック) お、お、お、落ち着け。とりあえず、落ち着こう…。(すーっはーっすーっはーっ!) ……よし! もぞもぞもぞ… ぱさっ。んしょっと。っ!めんどうっ。…ん、これはここだな。 お、いいな?…んしょんしょっ!(←革の編みサンダルをはいてます) …よし! 「…ん、さすが俺といった感じか?」 「着れたか…? ! いいな!!」 似合うとミロがベッドから身を起こして笑ってくれた。 丈もぴったり。鏡を見てみて自分でも満足の着こなしだ この服、上等なクセに法衣っていうよりもどっか古代の戦士ぽいって感じだ アイオリアなんかが着たら正に凛々しいっていう言葉がピッタリだろう 「だが、でもこれで仕事して平気か?」 「いいんだよ。コンセプトは見た目で殺すっ!なんだから」 「なんだそれは?」 「はは!ムウとかシャカなんてムッチャクチャだろ?気にしなくていいぞ?」 「あ〜〜確かにアイツらの…凄くいいかげんだ。分かった。借りる」 そう。ムウは訳の分からん民族衣装。…それが似合ってるから始末に負えない シャカはとにかくキンキラキン。金と白のとにかくど派手ーな衣装 思い出し笑いしているとミロが俺の言葉尻を訂正してきた 「いや、貰ってくれないか?タンスの肥やしじゃもったいないだろ、それ」 「……とりあえず、借りる。」 「……カノン?」 「借りるだけだからな」 このローブ、ミロにすごい似合う。 奴が着たらその野性味が洗練されて、きっと匂い立つ色気を纏う事だろう 今の黒い法衣も似合ってはいなくないが、ミロはこういう方がもっと似合うのだ 本人もそれは分かっているだろうに それをいらないと抜かすのはやはり… 「好きにしろ、だけど暫くは必要だろ?届くまでで良いから着てくれ」 「……………助かる。じゃ、行くか?」 「きっと皆ビックリするぞ?アイツらの顔が見物だな」 アイツらとは誰だ? と思いながら部屋を出た もう一度鏡を見て、ああ、と思う ミロがコレを渡してきた一番の理由 …サガは絶対こんな格好をしない。 兄はいつも襟まで詰めたかっしりした形にずろずろの袖と裾、今のミロのような法衣がお決まりだった。 成る程、差別化をはっきりさせたかった訳か。 自分の知る聖域の兄に対する確執の重さを改めて知ったような気がした。 (薄々は感づいていたのだがな……) 俺をサガと間違えてギクリと体を強ばらせる雑兵 俺にサガを重ねて懐かしむ者、憎悪する者、変な話を持ちかけてくる者嫌な当てこすりを言ってくる者様々だった。 まぁ、俺はサガと違って神経は図太い方なので気にしてはいなかったのだが やりにくい事は確かだった だけれどそれも贖罪の内かと思って仕事をしていたのだが…ミロは気にしてくれていたらしい つまり、あいつらとは教皇宮にいる人間達の事だろう 「カノン? 行こう…どうした?」 「いや。…ミロ、いつも悪い」 「はっ!何だ?お前がしおらしいなんて今日は槍が降るぞ」 「言っていろ…でも、本当にサンキュな」 「気にするな」 俺に笑いかけるミロに心の奥をぎゅっと握られたような気がした。 部屋を出て他愛のない軽口を叩きながら階段を昇っていく 先を歩くミロが眩しくて目を細めた。これはきっと…朝日の所為だけじゃない。 お前…ホントにお節介だ、世話焼きだよ …なぁ、どうして俺にここまでしてくれる? お前にとったら俺なんて、ちょっと袖が触れただけの人間だろう? こんなに優しくされるから…勘違いしそうなんだよ 今までいなかったんだ。 ずっと無視されてたんだ。…お前はスペアだと。 借り物の地位に上辺だけのやり取り。俺に許されていたのは打算に奸計ギブアンドテイク 食うか食われるかだけだった。 だから、そんな風に迎えられると俺はどうしようもなく幸せになっちまうんだよ すごく嬉しいんだ。 なんでお前は俺に優しくする…?? 無条件の好意は、俺に気があるから? …そうじゃないんだ、分かってる。 わかっているけど、それが当たり前では無い世界を俺は誰よりも知りそこで生きてきた。 何でだろう…それが、そんな俺がアテナの愛に生かされていたのを知ってから、世界が変わった? …ああ、めちゃくちゃ変わった! お前と女神が変えてくれた。…だから、俺はここにいる。 「あ〜〜今日も仕事だなぁ〜〜 で、今日は何をするのだ?補佐官殿」 「工事の予定及び予算案、各種セレモニーの賛否、各地に散らばった神官のレポート…」 「ぐあっ!聞かなきゃよかったっっ!!!」 「期待しているぞ?補佐官殿」 そう返して教皇宮の階段を上がる ミロが楽しそうに数歩先を駆け上がる …さて、ミロの気遣いに応えてやるとするか 彼を追いかける足取りは 何処までも軽く、心がいつの間にか弾んでいた |
ちょこっとほのぼの。ミロとカノンの聖域の日常
相変わらず自分の心に振り回されまくってます ノンタンv
カノンの衣装はアニメの黒サガ時代のものを連想していただけたら良いかと。
そして鬼畜だったサガがミロには甘く、かつ親代わりの存在だった??