トモダチ 今日もシャカの隣で執務をこなす。 俺に与えられた贖罪とやらは今の所穏やかな物で、教皇代理のシャカをサポートする補佐官を付きっきりでやるという事だった。 この、おシャカ様…尊大な口を利く以外教皇職にはまったくの不向きなので(いや、本当はこれで良いのかも知れんが…) 事実上、今俺が聖域を動かしていると言っても大げさでは無い、というぐらいにバリバリ仕事をこなしている。 (…だが、いいのか?実は結構不安だ。これでいいのか聖域) 書類とにらめっこし、神官と下らぬ言い合いをし、予算を増やす画策をする(これが一番手間だ) まあ、やりがいはあるのだがな…うんざりする事も多いのだ 色々と。 「ミロ、工事に重機を入れるからな」 執務室に入ってきたミロに喜ぶだろう一言を。 今日は珍しくこっちに顔を出したか。具合は平気なのか? この前馴れない力仕事と炎天下にへばっていたミロを思い出す そう、今の聖域はコイツら黄金の一部がなんと土方の真似事をしている始末だ 前の聖戦で人員不足になったから仕方ないのだが、効率が悪すぎるので重機投入に踏み切った。 いつまでもコイツらにそんな事やらせるわけにもいかない。だが処女宮直せとシャカも煩い。 誰も彼もぼやくは神官からクレームまで来る始末。12宮守護者にそんな事をと。 …で、反対を押し切って重機投入。手始めにユンボ、様子を見て色々投入する予定だ 「さようでございますか」 だが、告げるとミロは素っ気なく馬鹿丁寧に返すと膝を折り恭しくシャカに一礼をした。…ああ、そうだった。 ミロは仕事になるとケジメなのか、今執務室に神官が何人も立ち会っているからなのか慇懃な態度を貫く その言葉遣いや立ち居振る舞いは年期を感じさせる見事な所作だ。隙がない 服もぴっしりした法衣を纏っている。実に神官の受けがいいだろう そういえば初めて会った時もこんな感じだったから、…コッチが地なのだろうか? 食事を一緒に付き合うようになって知った砕けた口調には驚いたが、この徹底ぶりにも驚いたものだ。 お前はどっちが本当なのだろう? 「教皇補佐官殿…」 粗方用事を告げたミロは俺をそう呼ぶと後で天蠍宮に寄られよ、といくつかの回りくどい言い回しをし退出した ……いいけどな、何なのだ?わざわざここでまで言う事なのだろうか? どうせ、仕事の話か何かだろう。高を括って仕事を終えると俺は天蠍宮へと降りていった 「おまえ、退屈だろ」 「………は?」 図星と言えば図星だが…お前はいきなり何を言う?? だって、それが俺の贖罪なのだろう?聖域に生きろと引き止めたのはお前じゃないか。 だがミロは天蠍宮に足を踏み込むと持っていた書類を取り上げて俺にそう言い、 これまた手を掴んで階段を下った。行き先はモチロン不明だ 「オイ、ミロ!」 「来い!そういえばお前の歓迎会がまだだったから!」 は??よけい意味分からん。だがミロは獅子宮に入るとアイオリアを大声で叫んで呼び出す 「リアッ!今日は遊ぶぞ!!付き合えカノンの歓迎会だッ!!」 な、お前酒でも入ってるのか?いや、こいつはすごい酒豪でまったく酔わないんだった。 なぁ…さっきまでの慇懃なお前は何処にいったよ、何なんだお前? 「お、久し振りに遊ぶかミロよ!カノンも一緒とは、楽しめそうだな!!」 …お前ら…何して遊ぶんだ…? まさか夜中の特訓とかか?などと思ってミロを見るが違うようだ。 今日は一般的な服、(ミロはけっこう洒落ている)を着ているミロ 降りてきたアイオリアを見れば…こいつまで垢抜けた格好している。 お前ら、俺みたいな罪人を連れ回して何をするつもりだ? だが双児宮に付くと有無を言わせず私室に押し込まれたので俺も普通の服に着替えて付き合った 金牛宮、アルデバランにも声をかけていたが他に用事があるようだ。 白羊宮、ムウはブツブツ言いながら聖衣をいじっていたのでスルーしたようだ。 アテネ市街に出るのかそこを護衛する門番に声を掛けるミロ そう、聖域を正面から出ようなんて普通出来ないのだが。 「どういった外出でしょうか?ご予定は聞いてません」 「フン、俺達が雁首揃えて出るのだぞ?勅命に決まっている」 極秘任務だから跡を残すなよ?と平気な顔でウソを付いて笑うミロ おいおい?なあ、お前って…さ。 何だか心が、変な感じだ。なんだろ、コレ。この沸き立つようなカンジ 向かった先はアテナの市内にあるクラブで… お前ら、こんな所に馴染みなのか? そんな訳、ないよな… だが予想を裏切って馴れた様子のミロとアイオリアはカウンターにのべっと張り付くとバーテンと親しげに話し出した。 ……お前ら? …お前ら本当に黄金聖闘士か!?何だ?…その、その辺のにぃちゃんぶりは!? 「おっちゃんひっさしぶり♪ どうよ、儲かってマスカ?」 「ボチボチ〜 ミロ君何よ?そこの美形兄ちゃんは〜相変わらず派手だねぇ」 「派手?そうか、長髪だしな。あ、俺はザクロジュースにちょこっと混ぜるぐらいでな!」 「リア君は相変わらず苦手かぁ…はいよ!楽しんでって!!」 受け取ったコロナを俺に渡してミロとリアが手に持った物を俺に向けてくる 2人が戸惑う俺を無視してビンをカチンッ!と合わせてニヤッと笑った 「ジェミニにカンパ〜イ!ようこそ聖域へ」 「かび臭い牢獄にようこそ!同士よ、気楽に過ごそうなー!」 「………………………あ、あ。…………」 面食らって二人を見た。実に場慣れしたその態度 ……お前ら、おまえらって…奴は。 …すごい猫をかぶっていやがったのか! 何だミロ!お前の嘘つき振りは何だ!? アイオリアまで…お前はてっきりお堅い奴かと思ってたのに!! 「〜♪ 今日はカノンがいるから食いつきよいぞ?よし!楽しもうな〜リア!」 「だなっ!俺はあの子とか好みだから…よし!カノンあのグループだ!引っかけて来てくれ!」 「…おい、マジか!?」 「「マジだ!!」」 「なんだ、ポセイドン誑かした腕前見せて見ろ 人間の女落とせなくて神なんてたぶらかせるのか〜?」 「ほらほら、腕前見せてみろー色男!自慢の顔と身体が泣くぞ?それとも年か?キビシイか?」 ガキ共め… 何てことをいいやがる…。 さすがにここまでコケにされて引き下がれる筈がない。 大人の色気って奴を良く見てやがれ 「なぁ……俺達と一緒に飲まないか?」 ワザと女の耳元で囁くように言ってやる。 ぎょっとした顔で俺を見る女達ににこっと笑って誘いをかける …チョロいな。赤面してるのが良く分かる。 コクコクと必死で頷く女達の一人がミロを見付けて大声を上げた 「うっそ〜〜〜!ミロっち久し振りじゃん!」 「おっ!久し振り… 何、トモダチ?可愛い子がいっぱいだな」 その切っ掛けで一気に砕けた雰囲気に。 女の入った酒盛り。久し振りに感じる雑多な空気に…今までずっと入りっぱなしだった肩の力が抜けたような気がした。 ああ、お前 何かすごいよ。 自分でも気が付かなかった事を分かってくれたような気がして…心がすごくくすぐったい 退屈?ミロはそう言った。 …だが一気に吹っ飛んだ。ミロが強引に吹っ飛ばした。ああ、…なんて奴! 「ねぇ〜〜〜ホントにさぁ、リア君も何の仕事してるわけぇ〜?」 「ミロと同じだよ」 「じゃあ、カノンさんは?ちょっと年離れてるから違う職種ですか?」 「ん?俺もミロ達と同僚」 「またまた〜もうっ、すぐはぐらかすんだからぁっ!」 「ウソじゃ無いって!俺達職業、センシだもんな〜〜〜」 なぁ〜とニヤニヤ笑うミロとアイオリアと腕をかけて笑い合った * てっきりお持ち帰りでもするかと思ったらそうではなく彼女らと別れてアイオリアと外に出る 遅れてミロも店から出てきた 手にはドリンク。 ほいほいと俺達に渡しドライブでもすっか、などと言う いいけどな、 「いいけど…車を持っているのか?」 「無い」 「あれ?お前持ってなかったか?」 「あれはデスのやつだ…没収された。」 オイオイじゃあどうするんだ、免許も無いだろお前ら だがアイオリアとミロはキョロキョロと辺りを見回して何かを探し出した 待てよ、まさか盗むとかしないよな?なんかありえそうで怖いぞお前ら… 「…お、カモを発見したぞ!」 「〜♪ いいな!」 「カモ……あの、アルファスパイダーの事か?何か取り込み中だが…」 「そう、だからいいんだ ほら、女が嫌がっているだろ?」 「だな!俺達は腐っても女神の聖闘士だ。行くぞミロ」 嘘臭い言い訳を言ってアイオリアとミロがその車に近寄っていった。もちろん俺も一緒に行く。 2人は車に女を乗せようと躍起になってる所に寄っていき にこやか〜な笑いでオープンカーのボンネットにこれまたのべっとくっついた2人 「ふ〜ん、お兄さんいい車乗ってるね?なぁ俺らも乗せてくれない?」 「無理矢理誘っても嫌われるだけだぞ?女にはやさしくな」 余裕しゃくしゃくで強面の男に笑いながらそう言った。 キレる男に逃げる女 ぶち殺すぞ!等の言葉を目を丸くしていくつか聞くと 2人は何とは無しに俺を見た。おい…何だ?その俺に期待している目は? 「怖いな、リア。俺達は今キョウハクされている」 「だな、殺されるかもしれないな。よし!カノン、年上の貫禄を見せてくれ!」 …なっ!?ふざけるな、何が年上の貫禄だ餓鬼共!! 一般人に聖闘士が暴力振るったらハンバーグの種ができるだろうがッ!! 「カノ〜ン!あれいっちゃえよ、 幻朧魔皇拳?やっちゃえやっちゃえ」 『貴様らぶち殺すどコラァ!!』 「ミロ、幻朧魔皇拳はエグイ!かけられた俺が言うんだやめとけ。カノン、幻朧拳くらいにしとけよ?」 「…お、まえら……結局俺にやらせるつもりか…………」 この……アホ共!一般人にそんな事するか!! 俺はさっきからがなり立てるオッサンに近づいて目の前で指をパチンと鳴らして見せた。 オッサンはカクンと倒れて悪夢の中へ。いっちょ上がり こんなもの暗示ぐらいでチョロいのだ 「おっしゃ、俺が運転するッ!リア、オッサン後ろに転がしてくれ」 「哀れな…じゃあカノンは助手席座れ。うわっ!ミロまだ発進すんなぁ!!カノンッ早く乗れッ!」 「お前らバカだ!絶対バカだな!!うおっ!ミロッ貴様運転出来るんだろうなぁッ!?」 「とっばっすっぜえぇぇぇうおりゃあぁぁ!!セカンドッ!サードッ…コーナーは俺の物だッッッッッ」 「ゆけっ!ミロッ ヒール&トゥだぁ!!」 わははははははははははははは! 笑いながら猛スピードでカーブをギュンギュン曲がる赤い車 無駄に派手なドリフトをかまし、ゴミ箱を引き倒し、野良犬がギャンギャン吠え立てて。 オカシイ…どうしてこんな楽しいことが起こってるんだ? 風にたなびくミロの金髪 振り回される身体に、身を乗り出して騒がしいアイオリア 何だよ、これ…こんな事していいのか!?こんな、こんなッムチャクチャだお前達!! わははははははははははは! いつの間にか俺も笑っていた。 なんだろう、すごい楽しい。胸がドキドキする。こんな事で。こんな事なのに。 何でだろう?お前達がいるから?ああ、そうかも。 こんな風に人と笑ったのは初めてかも知れない。楽しい胸騒ぎ たまらない高揚感 車はごちゃごちゃした市内から出て真っ直ぐな海沿いのストレートをすごいスピードで流していく 風で聞こえにくい声を張り上げてミロとアイオリアがしゃべり出した 「わはははっ海行へくか〜!海が恋しいだろ〜カノン!!」 「お!行こう行こうッ あ、スニオン岬には行かないぞ?はははっ」 「………!! それはゴメンだッ!間違っても行くなッ!!」 冗談をいいながら適当な海岸にたどり着くと車を止めて走り出すミロ 「先に海岸付いた方が勝ちな!」 「ずるいぞミロッ!」 「バカだ!ホンモノのバカだな貴様らッ!」 駆け出すアイオリアに続いて俺も何だかんだ言いながらも走り出した。 すごいバカだよ俺も。でもなんでか楽しい。こんな下らない事が堪らなく楽しい。 「くらえっ!」 「卑怯なぁ!!」 後ろにせまったアイオリアにビンをぶつけるミロ 避けるがそのせいで一瞬遅れる。ぶつけようとしたミロも。 その隙に俺がミロの先に行ったのだがミロが俺に抱きついてタックルをかます 二人で砂浜に縺れながら転がった。口にまで砂が入ってくる 「ベッ…!ミロ、貴様…」 「うあ!砂だらけだ…うおっ!?」 アイオリアがさっきの仕返しとばかりに一発かましてきたがミロが身体をくねらせて避けた そのまま2人じゃれ合って砂をかけあったり首を絞めたり。いつもこんな感じなのだろう 「「隙あり!!」」 「なっ!?」 と、思ったら俺に足蹴りをかます二人。とっさに飛んで避ける ふざけるなよ…?このカノン様にそんな攻撃がきくものかっ! 「どりゃあああ!」 コスモで地面の砂をぶばばっと奴らの方にぶっ飛ばしてやると、砂まみれになった2人が追いかけてきた。 じゃれあって響く笑い声 押さえきれない鼓動 期待に胸が膨らむ 次は何が待っている?と。 ざらついた砂の感触に生ぬるい空気 次第に空が明るくなってきて… 「朝日だ…」 それを合図にのんびりと腰を据えて海を眺めた。 「楽しいかったか カノン、あそこじゃ肩が凝って仕方なかっただろう?たまには息抜きをしないとな」 「神官共には泣かされてるだろうな アイツら血も涙もないからなぁ…」 どこか遠い目のアイオリア そうか…コイツは色々あったらしいからな。 そうでもないさ、と返してにぃっと笑った。半分本当、半分虚勢といった所か。 ミロが海を見ながら俺に呟く さっきと変わった真剣な声色で。 「カノン、見誤るな 幸せになってはいけないという事じゃない。矜持も捨てるな、苦しいときは苦しいって言え」 友だからな、絶対助ける。前を見ることがお前の為すべき事なのだからな ミロの言葉が心にするっと入り込んでしまった…ただ黙って朝日を見る 返事はしなかったがそれだけで分かり合えた。そういう人間関係、そういう友人。 …ああ、それはなんていいものだろう。 それだけが言いたくてこんな真似したミロに胸が熱くなった。 サンキュウな、ミロ、リアも。 すごい楽しかったよ 「俺もだぞ!…よし!そろそろ行くか!今日は巨蟹宮の修復だぁッ」 砂を撒き散らしてアイオリアが立ち上がった。 「……!不眠で仕事か、そういえば…」 「お、年よりはこれだから。 あ、…そういや俺も今日は補佐当番か」 俺とミロも習って砂を払いながら立ち上がる。髪が長いと、こういう時大変だ 髪をばさばさしながらビールを口に含んだ 砂…入って無いよな?いや、入ってるな 「あ、俺もひとくちくれ」 ミロが勝手に奪って口を付けた。 喉が気持ちよさそうにゴクゴクと動くのが妙に気になった。 汗をうっすらかいて、白い砂が所々ついている 俺は、何をじっと見てる? 「ん、サンキュー」 渡されたコロナのビン 落とされたライム ちと砂が混じって生ぬるくなったソレ 俺も口を付けようと思って少しためらった。 …どうやら理由は…ぬるくなった、砂が入った……等では無いらしい。 (……俺、は… すごい馬鹿だ………何を考えている?) ビンを煽って車に戻った。 間接ナントヤラなんてアホらしい。色々とアホらしいぞ、俺。 元来た場所まで車で戻ると唸り続ける災難なオッサンに指をパチンと鳴らして暗示を解除した。 「あれ?めぇ覚まさないぞ?」 「だ、大丈夫か!?人殺さないと戻らない何て事…」 「無い。すぐに起きたら面倒だろうが… 30分たてば目を覚ます」 車とオッサンを後にして、俺達は足早に12宮へと戻った。 俺を繋ぐ牢獄な筈の聖域。 罪を償えと繋ぎ止められたその場所へ …だけど、こんなのは予想と違う。 刺激的な胸騒ぎ、信じられる者 女神の舞い戻った聖なる領域 薄っぺらな教義を吹き飛ばす、温かい言葉。 はじめて手に入れたトモダチ (まいったな、) そう、あんなに苦痛だった聖域なのに。あの苦い記憶ばかりの忌まわしい場所なのに。 かつての俺の牢獄…いつか逃げ出してやると息巻いていたあの時の俺。未練なんてこれっぽっちも無かった筈なのに… なのにミロの言った“お帰り”が 酷く懐かしく、そして悔しくもあったその場所が。 (帰ってきたのが嬉しいなんてな…) お前達と生活を共に出来る事が、奇跡のようだと嬉しく思う そこがまたひとつ、かけがえのない場所になったような気がした。 |