幼き日の思い出
(2/Sideムウ/教皇シオン存命中)












「みおなんて嫌あい!」
「おりぇもむうきあい!」



あんあん泣きながらお互いの頬をつねり合う私達に、はぁ〜〜とサガはため息を零す
…それをアイオロスが笑いながら慰める。
ロスに手を引かれて来たアイオリアも私達を何とか宥めようとよたよたと近寄ってきたけれど
「うるしゃい!」と2人の頑固者に手を払われる。
で、リアもあんあん泣きだして事態は更に悪化。
アイオロスもリアを抱きかかえながらはぁ〜〜とため息を付き
サガも私達二人を別々に抱きかかえながら、困った顔ではぁぁ〜〜とまたため息を零した。
それを見合って、サガとアイオロスはお互いを笑う。

それは どこか甘くて  …切ない記憶。






「サガよ、ムウをお前に任せる 出来るか?」
「はい、このサガ ムウを立派な聖闘士へと導いて見せましょう」

最近頓に派閥争いが激しくなった聖域
これは、その原因の神官共に業を煮やした教皇シオンが取った荒っぽい対策だった。
サガは恭しく傅いて教皇の命を賜る
その表情の奥には、してやったり と 何と厄介な という相反するものが同時に混在していた。
だが、それを知るものは私ぐらいのものだったろう
それぐらい微妙な変化だったのだ。
傍らにいた私は不安げにサガを見れば、サガが硬く笑って私を見返す、その硬さにまた不安になる
今ならサガの戸惑いが良く分かるのだが、その時の私はまだ幼くまだ何も知らない子供だった。





「シオンたまぁ…」
「教皇さまじゃ、ムウよ」

ここは教皇宮の地下にある秘密の隠し部屋のひとつ
ここの地下には沢山の通路と幾つもの隠し部屋が存在している。

半ば封印されている色々な薬庫 火薬庫 埃を被った様々な物達
人目に触れてはならない書物がぎっしりと詰め込まれた部屋
今は使われていない地下牢、…拷問部屋まであって私は良く怯えたものだ。

「サガの所ぉ、行かんくちゃダメぇ?」
「ダメだのぉ、神官共が煩くまとわりついてるのをムウも知っておろう」

聖衣について手ほどきを受けながら師を仰ぎ見る
当てられたしわしわの手が優しく頭を撫でて続きを促した

サガの所の神官達と私の所の神官達はとても仲が悪い。
これはもう最初からのことで、相対する派閥がサガを持ち上げたか、私を持ち上げたかの違いだった。
つまり私達を勝手に担いでのまったく迷惑極まりない派閥争いをしていた訳なのだが、
さすがに周りからサガの悪口三昧を聞かされていた幼い私にとって、不安があったのも事実だ。

「でも、みンなサガ わたしのこと嫌いっていうもん」
「ムウよ、真実を見誤るでない。自分で確かめて初めて解ることが世の中には幾つも幾つもあるのじゃ」
「こえみたいにぃ?」
「そう、これみたいに…」

そう言ってシオンが青銅聖衣の壊れてしまったパーツを炉に放り入れていく。
キラキラ光るスターダストサンド(私はこれが一番好きだった)
そしてオリハルコンの粒子を絶妙な配分で加えて、一段落。
ぶくぶくと泡が吹くまで、ちょっと時間がかかるのだ。

「それにの、サガの所にはミロがいる。ムウも同い年の友が欲しかろう」
「みおころもだもン!わたしよりちーさいしうるさいもん!」

そう、この時期の数ヶ月の生まれの差は結構大きい。
私はこの時3才になっていたがミロはまだ誕生月前なので2才
その時の私から見ればミロはまだ全然ちっちゃくてサガにまとわりついてちょこちょこ駆け回る、
そこら辺にいるような何も代わり映えのないただの子供だった。

「ほ、ムウも言うのぉ じゃあアイオロスの方が良かったかの」
「ろすもりあも嫌ぁい! いっつもくんれんばっかぁつまんないもん!」

そう。少し前に来たばかりのアイオロス、アイオリア兄弟も好きじゃなかった。
朝から晩まで訓練三昧。(今思い返してみるとそれはロスなりの慣れない世界への気の張り方だったと思う)
それも勘弁して欲しかったが、リアと仲良くなどしたくないと思っていた。
リアは3才になっていたし体格も良くて結構大人びてはいたけど兄にべったりしてて、
それが子供っぽく感じ好きじゃなかった。

「りあもみおもころもだもん!わたしは好きくな〜〜い」

駄々をこねるとシオンが笑った。口には出さなかったがお前も子供だろうにといった風に。
そう、本当に彼らが好きじゃなかった理由は違うのだ。
ミロはサガという保護者に普通の子供のように甘えて屈託無く幸せに笑っていたから。
リアも兄さん兄さんと事ある毎に兄に甘えて、抱きかかえられて涙を拭われていたのだから。
それが好きじゃなかった。狡いと思った。仲良くなんて、とんでもない!

そう、私は彼らに嫉妬していたのだ。だから、好きじゃ無かった。
自分はシオンに表立って甘えることが出来なかった。いけないと言われた。一緒に暮らす事も。
教皇宮に近い所で暮らしてはいるが、そこに教皇が立ち寄る筈もなく
身の世話をする神官達は、崇めるような口は利くクセに、何処か態度はよそよそしかった。
ここ以外でシオンと会った所で、口うるさい者達に礼節をと口やかましくくり返される。
こんなに優しいシオンも人前ではそっけない態度だ。
だから私は彼らが憎かった。
自分だけ理不尽な扱いを受けているような気になっていた。

「それ、ムウよ… 鋳型にゆっくりと流し込んでみぃ」
「あう…熱いのですしお、教皇…た、…さまぁ…」

不平を言いながらも私は聖衣の事を教えて貰うのが大好きだった。
師もそれを分かっているようで何気なく興味のある事を引き出してくれる。
…そう、ここならば存分に甘えられる。
ひと目を気にする事もなく、師が優しく私に微笑んでくれる
ここは私達のナイショの遊び場。余所余所しい振りをしなくていい唯一の場所
井戸まである、聖衣の修復に関する知識と道具が一杯に詰め込まれた地下の、
このひと部屋が私の最高の遊び場だったのだ

「いずれムウにも分かるだろう、あやつの優しさと、苦悩がの…それ、もう良いぞ?」

前に固めていたパーツをゆっくりと灰をの中から掻き出した
灰にまぶしていたそれを私は獣の皮で磨いてみた。鈍く輝く青銅のそれ
出来具合を確かめた師が、にっこりと皺だらけの頬をゆがめて

「良くやったな、ムウよ…」

私を褒めてくれる。嬉しくなって師に抱きついた。

「これこれ、ムウよ…灰だらけになってしまったではないか」

青銅のパーツを横に置くと よっとかけ声を掛けて私を持ち上げる我が師シオン
私は笑いながら師の髪を引っ張って遊んだ
灰に塗れる髪に困りながらも、笑ってくれた師が、私はたまらなく好きだった。

「あはは しおんたま はいだらけぇ…」
「ムウもな…早めに風呂に入れてもらいなさい」



その日に借り屋をサガの双児宮近くに移された私は
借宿に入ってすぐに、不安が大きく確信に変わってしまったのを知った。













してやったり・何と厄介な・という二つの相反する感情   サガの優しさと苦悩



子供の言葉が分かり辛いでしょうか?でも書いててシオン&ムウのやり取りはほんわかしましたv
そしてミロとムウがホッペをつねり合ってるのを想像するのが楽しかったです。
さて、散りばめられた謎の欠片 貴方が?と思った事がそれだと思います。
何故派閥がムウとサガに別れたか。これはこの捏造設定の時間軸も関係しています
そしてムウが言うロスリア兄弟が少し前に来たと言う事は、つまり双子・牡羊座・蠍座の後に聖域に来た射手座&獅子座
そして故人と友人〜に書いていたサガの所にムウがいた。という話