NOVEMBER RAIN 7















雨音がする。  ・・・・激しい雨音。



シャアは熱いシャワーを浴びて戻ると、ベットに横たわるアムロを覗き込んだ
・・・・大丈夫だ。 ぐっすりと眠っている。
少し疲れた顔で眠る彼が愛おしくて 頬にキスを1つ落とした。


彼を身綺麗にしてローブを羽織らせ、ベットに横たえる。
その一連の動作にアムロは身じろぎもしない。
心配になって、途中何度も心音などを確かめたりしたのだが
ただ深い眠りに落ちているだけのようだ。


(あんなに激しいことをすれば当たり前か・・・)


顔が赤くなってしまった。
先程の濃厚なSEXを思い出してしまったから。
そして、彼が最後に言った言葉が頭の中にリフレインしてくる


『僕も愛してる』


きっと・・・何も分からなくなって言ったに違いない言葉だろう。

分かっている。

・・・・分かってはいるのだが、心がふわりと暖かい

不謹慎だとは思うのだ。
彼はきっと悲しみに暮れていて、身体も心も不安定になっているのだから。
けれど心の中に嬉しさがこみ上げては、シャアの頬を緩ませる

(すまない、アムロ。起きたら君の話を聞きたい。・・・それから・・・)

シャアはアムロの隣へ潜り込むと 彼の背中をゆっくりと撫で続けた。
抱き込んだ彼の寝顔を見つめながら。


シャアは幸せだった
失った青い鳥が自分の元へ戻って来たのだ
自分の誕生日に、一番欲しい言葉を持って。

(神に感謝してしまいそうだな)

信心深くもない癖にそう思った
今日出会ったのはほとんど偶然だったし、彼を抱きしめられるなんて奇跡としか言いようが無い。

「愛しているよ、アムロ」

自分のこの気持ちを言葉にすると、なんて陳腐なのだろうとシャアは思う。
でも、この言葉以外に見つからないし、この言葉が一番近い気がする
シャアはもう一度だけ呟くと、愛しい彼の唇に軽くキスをした。


時刻はもうすぐ夜半を回る頃


外の冷たい雨の音を聞きながら
シャアは、幸せに酔いしれていた。









ザアアアァアアァアァァァアァァァァァ・・・・・・・










・・・・どれくらいそうしていたのだろう?


眺めていたアムロが、体をピクリとさせると微かに震えだした。
寒くは無いはずだが、とアムロを覗き込むと 彼の瞳がぱちりと開いて自分を見た。


「アムロ? 寒いの・・か・・?」


自分の問いかけも終わらぬうちに、彼はもつれる足でベットを出た。
何かを自分のコートから取り出し、駆け込むようにバスルームへと消えていく


(・・・・・・・・・・?)


シャアは髪をひとつかき上げると、彼のために冷えたミネラルウォーターを用意した。
その途中、彼がバスルームに駆け込んだ理由の一つが思い浮かんで 困ったような、バツの悪い様な表情をする

(もしかして中に出し過ぎて、腹を痛めているのでは・・・)

頬を染めながら、申し訳のない気持ちになって彼を待った。








・・・・・・・・・・・・遅い?








いくら待ってもアムロが出てこない。


心配になってバスルームのドアをノックし、声を掛ける

・・・・返事も無ければ、シャワーを使っているような水音もしない。



「アムロ・・? アムロ、平気か!?」



ある種の不安が頭をよぎってドアを強く叩いた。
だが帰ってくるのは静寂ばかりだ
シャアは断りを入れてドアを開けようとしたが、扉は鍵が掛かっていた。
バスルームなどの鍵は簡易式だ。
シャアは手近にあった爪ヤスリを手にしてドアを開けようと試みた。

(ちぃっ!)

焦りのためか手が旨く動かない!
やっとと言う気持ちでドアを開くと、シャアはそこで思いもしなかった光景に目を見はった









・・・・・・・・・何故・・・・・・・?









シャアは硬直した。


バスルームにアムロが倒れている。 ・・・・鼻血を出して。




ひどく心を取り乱しながら彼にそっと触れようする

・・・手が震えていた。

動揺しながら心の内で自分を激しく罵った

(私は、何故 彼から目を離したりしたのだ!)

彼が少し混乱してしまうほど、悲しみに暮れていたのを知っていた筈なのに。
ちょっと考えれば、彼から目を離してはいけないことぐらい気づけた筈なのに。

後悔で頭を真っ白にしながら彼の頬にそっと触れた。

・・・・・・・・息がある!!

おろおろとした心のまま、彼を動かして良いか外傷を調べようとその場に屈み込んだ。
そのときローブの裾に何かが触れて、
それはころころと音を鳴らしてタイルを転がった。




――――――――――――これは・・・?




その時、シャアの頭に様々な出来事が思い浮かんだ  ものすごいスピードで。



アムロに言い寄った初老の男が、ポケットに忍ばせた物
その男が言っていた、少し不可解な言葉。
ハーレムのさびれたマンションへと消えた彼
・・・そして、触れると異常なまでに快感を訴えるアムロ。



ひどいショックで立ちつくしていると、アムロの瞳が少しだけ開いた。
虚ろな瞳が、宙を見続けている


「私は・・・馬鹿だ! ・・・もっと、 早く、 気づけたものを・・・  」


泣きたい気持ちだった。
嬉しがった自分に腹が立った。
なぜ、とか あの時、とかが頭の中をぐるぐる回った。


・・・・それは見たことがある。

撮影スタジオの影で、使っているモデルを目にしたことがあった。


「・・・・・アムロ・・・・・君は・・・・」
・・・・そんなに悲しかったのかい? 続く言葉は何処かへ消えてしまっていた。
少なくとも6日前の彼は、普通だったのだ。



震える手でアムロに触れる

それに気付いたのか、とろけた瞳でシャアを見上げる。

にこりと微笑む彼が、悲しくて、悲しくて・・・。

シャアの頬を 一粒の涙が零れていった。





嘲笑うような激しい雨音。

夢の終わりを告げるように時計の針が真上を示す





バスルームで倒れているアムロの横には
銀色の試験管の様な形の入れ物




それは、コカイン・ケースだった。







(17th END)







長かった〜〜!濡れ場がこんな長い小説(と、言うほどの物ではないが)は私ぐらいなものなのでは??
上の話になりますが、・・・・はい。ごめんなさい。注意書きにある”反社会的”というやつは麻薬の事ですね。ハイ。
断っておきますが経験者では無いので、こうなるかどうかは聞いたり読んだりを参考にしました。
すごく幸せで気持ちよくなったりする反面、恐怖なんかもすんごくなるんだそうで。
麻薬が切れちゃうともう大変みたいだし、麻薬のために生きるようになるんだそうです。それが全て。
そしてもっと最悪なのが、続ければ生きる屍→廃人。 やめる→いいこと無い(と実感するみたいです)という事。
だから、絶対ダメなのです。興味本位でも取り返しが付かない事が圧倒的に多いのです。麻薬、ダメ!
それをふまえた上で物語を楽しんで下さいね。



前の話へ  
  裏TOPへ