NOVEMBER・RAIN


「11月17日」








暗くなってきたなら 窓を閉めて
孤独が近づかぬように








「なーにやってるんだよ、シャア。本日の主役はお前だろ?」
・・・・分かってはいるのだがね、ガルマ。元気が出んのだよ
「もしかして女にでも振られたか?ははっお前に限ってありえないか。」
いや、そのまさかさ。 ・・・・女では無いがな
「シャア、何とか言えよ。すごく暗いぞ?・・・その手に持っているのは何だ?」


シャアの手には、古めかしい銀色のヘビのデザインリングがあった。
宝石がちりばめられた凝った造りアンティークの指輪はガルマの興味を引いたが
シャアは視線に気づくとそれを何も言わずに前屈みに隠してしまった。・・・・まるで子供だ!!

呆れたので無言でその場を離れ暫くシャアを見守る。
するとシャアは隠していた指輪を取り出して、悲しい顔で指輪を眺め続けるのだ。
『いったいどうしたんだシャア!?・・・お前怖いぞ!!』とガルマは心の中で叫んだ



***



――――――数日前、アムロが家に現れた。
それまで一切連絡が取れなかった彼の出現にシャアはとても喜んだ。―――アムロがお別れを言うまでは。
彼は鍵を返しに来たのだ。

シャアは帰ろうとする彼を必死に引き留めて、あらゆる言葉を尽くして彼との関係を繋げようとした。
しかし彼は首を横に振るばかりで
焦れたシャアは彼の手にむりやり紙幣を握らせた。

それがいけなかったのだろう・・・

アムロは瞳に炎を宿らせるとシャアを睨んで『馬鹿にするな』と叫び
シャアの手を振り払うと扉を強く叩きつけて出て行った。

――――――アムロが消えてしまった。もう、戻らない。

部屋に舞い散る紙幣が彼の心を金で買っていたのだと告げるようで 辛かった
失ってしまった大きなものに、 ショックで涙も出なかった

ずっとそのまま部屋でうずくまっていたように思う。 ・・・ガルマが来るまで。
彼はずっと連絡がなくて心配していたと言うと、誕生日だぞ?と告げ私をバスルームに押し込んだ。
身支度がすむと勝手に用意したというレストランを貸しきりにしたバースデー会場に連れ込まれ
・・・たしか、ロウソクを吹き消したと思う。
どうでも良かった
後は皆勝手に、馬鹿騒ぎをしてくれた。


シャアはヘビの指輪を眺め続けた

これを彼に渡そうと思っていたのだ。愛の証に。
この指輪は祖父が祖母に贈った物で、その祖母が亡くなる前に自分にくれたのだ。
『貴方の本当に愛する方に贈りなさい?』そう言って。


シャアはアムロを思ってぼんやりと ただ、指輪を眺め続けた。





***




「アムロさん、大丈夫?」


カミーユが声を掛けると大丈夫と笑った
今日は大学の前期の試験日でアムロは無理して出てきたようだ。
あんな事もあったばかりだし、体調が優れないのだろう
額には汗を浮かべ鼻をすすり、体は細かく震えていた。

「アムロさん、俺送ります。何か体調悪そう」
「・・・・平気だよ?気にしないで。それに俺あっちに荷物取りに行かなきゃならないし。」

それより試験どうだった?とはぐらかされ、話にジュドーも混ざり取り付く縞が無い。
それから「トイレに寄ってくから先に帰ってて」と追いやられた。

(アムロさん、俺たち心配してるんですよ?)
心の中で呟いてから、これ以上気をつかわせまいとその場を後にした。


「ごめんカミーユ」


誰もいないトイレの個室で呟いた。
先程含んだモノで、口の中が苦い。
・・・・まだ少し時間が必要だった。イロイロな意味で
自分の中は真っ暗で空っぽだった。
ただ、何も信じられなかった。

アムロは一筋の涙を流すと、タメ息をついて個室を後にした




***




(アムロが見える。・・・・まぼろしだろうか?)



シャアはレストランを出た後、あてもなく街を徘徊していた。
雲に遮られたニューヨークの街並みはなんだかガランとしていてまるで自分のようだとシャアは思った。

ついに幻まで見るのかと一人失笑していたが、
その後いくら見回してもアムロの姿は見なかった。

(・・・・・・・まさか本物か?)

慌てて先程の道を戻りアムロの入った建物を見た。


「病院・・・・?」


シャアは迷わず足を踏み入れた





***





「貴方、どこへ行くの?」


院内へ入って奥へ行こうとすると、赤毛の女医に声をかけられた
ネームプレートにDrマチルダと書いてある。

「私はアムロに逢いに・・・」
「あら、そうだったの。テムさんお気の毒でしたね。アムロ、あんなに献身的だったのに」
え?と答えると あら、まだご存じ無かったのね。と医者は続けた
「お父様、6日前にお亡くなりになったのよ。でも、良くがんばったわ。あの状態で5ヶ月も持ったんですもの。
アムロの希望で来月に手術の予定を入れてましたけど、きっとテムさんも分かっていたんでしょうね。
手術の確率はとても低かったし、とてもお金がかかるって。」



声が出なかった。
彼が身を売って得ようとしていたのはこれだと知った。
心が切なくて苦しかった。
そんな彼に、自分は何をしたのだろう?


ショックを受けた自分を医者は勘違いして「お気を強く持ってね」と言った。
そして「アムロはテムさんがいた病室を覗いてるはずよ」と

シャアは軽く礼を言うと他の職員にテムの病室を聞いて、そっと部屋を覗いた
部屋にはまだプレートがあって『テム・レイ』と書いてある。
その片付けられたベッドの上にアムロはぽつんと座っていて
静かに涙を流していた。

シャアは声がかけられず黙って彼を見守った。
やがて彼は立ち上がって、近くの花瓶とネームプレートを紙袋へ押し込んだ。
きっと、彼がユリを欲したのはここへ飾る為だったのだろう・・・


フラリと病院を出たアムロをシャアは追った
声をかけるタイミングが掴めなかったのだ。



アムロはしばらく歩いてから紙袋を捨てると
ハーレムの方に向かって歩き出した。










マチルダさんとうじょ〜う!
・・・なんて都合の良い展開!
あれですよ、患者の私物が死後6日間も置いているのかよ!とか
病院からハーレムまで歩ける距離?とかいいっこなしよー

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