Mermaid in the Sea   <第一章 人魚のいる海>



Kiss −キス−   3











「・・・・とりあえずメシにしよう」


シャアは自分にともガルマにとも聞こえる言葉を呟くと途中の着替えをし始めた。
ガルマも軽く身だしなみを整えると、早速イセリナに電話を入れて食事に誘っていた。
(・・・・仕方あるまい・・・)
イセリナに今から話すことを聞かれるのに抵抗は有るのだが、どうせガルマに話せば筒抜けだ。
そう自分を納得させたが、はぁ とため息がこぼれた。


これから行くレストランはホテルの下にある
外に作られた階段をガルマと二人で降りていった。イセリナとはレストランで待ち合わせをした。


ホテルは海岸沿いの岸壁に埋め込むように立っている。
崖を削って緩やかな石の階段をこしらえ、中腹の開けたスペースにレストランがある。
オープンテラスのレストランの下にも階段は続き、さらに下のプライベートビーチに出られるようになっていた。
もちろん、ホテルにエレベーターは付いているのだがシャアはこの階段を選んだ。
このアプローチがとても気に入っていたし無性に潮騒を感じたかったのだ。
ガルマも遠回りのこの道を文句を言わずに付いてくるのはここが嫌いでは無いからだろう

「風が随分と強い」
「シャア、足元をふらつかせたりしないでくれよ?」
「もう平気さ」

長く続く階段は両側の壁に無数の穴が開けられ、そこに収まった蝋燭達が揺らめきながら辺りを照らす
海側に作られた花壇の花たちが強い風に煽られながらも花弁を綻ばせている。
シャアはうん、と ひとつ伸びをして潮風をいっぱいに浴びた
見事な曇りのない金髪が、風になぶられては光を乱反射させる

(この海には、人魚がいるのだ)

幻想的な光の道をたどりながらシャアは思った。
海風に乗って聞こえてくる潮騒の中に人魚の気配まで感じるようで嬉しかった。
幸せな気分が胸を満たして、 満たすと同時に切なくもなった

「また、君に逢いたい・・・」

シャアは真っ暗な海にそう呟くと、その声色にとても驚く
その言葉は、いつも女性達に囁く言葉とまったく一緒の筈なのになんとニュアンスの違うことだろう
それを自覚したとたん シャアは水に打たれたように立ち止まった。

(わたしは・・・恋をしている?)

自分は今まで女性に不自由した事など一度もない。
あたりまえだ、自分で思うのもなんだがこの身分でこのルックスだ
女が自分を放っておきはしなかったし、自分も落とせぬ女はいないと思っている。
しかし女性と付き合うということと、恋愛をすると言うことは別なのかも知れない・・・

シャアは、それを今初めて体感したのかと そう思った。

シャアは自分に手に入らぬモノなど何一つ無かったし、出来ない事など何もなかった。
ちょっといいな、と思えばすぐ手に入ったし何でもすんなり習得できた。人の心でさえも。
故に執着は薄い

(では、この感覚は手に入れられないモノへの、初めての執着というやつだろうか?)

そうなのだろうか?
そうも思うしそうではないような気もする
・・・何分、初めてなのだ。
こんな気持ちにさせられる事は・・・



答えのでない自問自答をくり返しながら、シャアはゆっくり歩き出した。
先を歩いていたガルマはもうとっくにイセリナの所へ着いている事だろう

はぁ、

何に対して零すため息かまったく分からないまま、またひとつため息をこぼして
シャアは光の階段を少し足早に降りて行った。










タラシのシャア、独白。
ホテルは何かの映画で見たリッチなホテルを組み合わせてみたり。



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