Mermaid in the Sea <第一章 人魚のいる海> Kiss −キス− 2 |
シャアは親友のガルマと共に、イタリア・サルディーニャ島に来ていた。 レースに出る為に。 『パワーボート』のレースにである。 自国で人気のこのスポーツは海のF1のようなもので、 海の上のポイントを時速200キロ以上でせめぎ合う激しいスポーツだ。 それに何と言っても金がかかる。とてつもなく莫大に。 シャアはこのパワーボートのチームオーナー件エースパイロットをしている。 普通、個人でチームオーナーなんてありえない話だがこの世界に限っては違う 個人のチームオーナーの方が多いのだ。 そんな馬鹿なと思われるかもしれないが、このスポーツはスポンサーが付くメリットが少ない。 そのうえ付いても焼け石に水の運営費だ だから、個人(莫大な大金持ち)が道楽でやるようなモータースポーツなのである。 シャア・アズナブル ―本名キャスバル・レム・ダイクンはさる小国の王子である。 シャアという名は本名を出すと一々やっかいなので好んで使う偽名だが、 放蕩息子の彼にしてみればこの名前の方がしっくりきていて友人などもこの名で呼ぶことの方が多かった。 他にもいくつか偽名はあったが、彼はシャアという名前が一番気に入っていた。 シャアは早めに現地入りをしてメカニック達とエンジンテストなどの調整をしていたのだが、 親友でもあり、チームのナビゲーターを務めるガルマがいきなりクルージングをしたいと言い出した。 最近恋仲になったイセリナ嬢とのデートに、付き合って欲しいと頼まれたのだ。 もちろん、最初シャアは丁寧に断った。 だが奥手な二人はどうしてもと聞かず、結局ガルマ運転のクルージングに付き合わされる ・・・で、張り切りすぎたガルマの運転に船は見事に波に乗り上げ その衝撃をまともに受けたシャアは船体に頭を打ち付けて海へと転落。 そして今に至ると言う訳だ。 寝起きの頭を覚醒させようと、今までの出来事を全て振り返り シャアは睫毛をゆっくりと上げた。 もうそろそろ起きてもいい頃だろう 「ガルマ」 目を開き、開口一番に友人の名を呼ぶが返事はない。 横を見れば、椅子に腰掛けたガルマは気持ちよさそうに船を漕いでいる。 時計に目をやると夕食には丁度良い時間 下のレストランに行こうと体を起こす 長いこと眠ってた割には、身体はすっきりと動かせた。 「ガルマ、飯へいくぞ」 もう一度声を掛けてクローゼットへ向かう 頭の包帯は邪魔で取り外したが、さすがに額のガーゼは貼ったままにした。 お気に入りのシャツを羽織る頃になってガルマはむにゃむにゃと目をこすりだす。 よっぽどいい夢でも見ていたのだろうか? ”そういえば夢も見なかったな” 自分の深い眠りを思っていると、ふいに人魚の顔が鮮明によぎった。 ブルーの瞳に赤茶の睫毛 そして人好きのする人なつっこい笑顔。 シャアはクローゼットで立ち止まったまま繰り返し人魚の事を思い出していた。 海の中で、泡を纏いながら 絡み合って泳いだ事 君が、何度も私にキスをしてきて 誘うような媚態を見せたこと そのくせ私と目が合うと まるで聖母みたいな笑顔を零したこと・・・ 気づけば、着替えも途中で人魚のことを熱心に思い出そうとしていた。 ・・・顔が、熱い。 いつの間にか親指が唇をなぞっている。 「シャア?どうした」 ガルマがいぶかしんで訪ねてきた それはそうだ 赤い顔で、着替えの途中にボーッとしていれば 私だって訝しんで見るだろう。 「・・・いや、なんだ、その・・・」 私はガルマに話すかどうか悩んだ どうせ話しても”ロマンチストめ”などとほざいて、イセリナとの話の種にされるだろう。 ・・・・きっと二人で私をからかうに違いない!・・・いや、絶対そうなる!! それに、人に話して記憶を色褪せさせてしまうのも忍びない。 そういえば、昔話などにも有るではないか、 話したとたんに忘れてしまうだとか、殺されてしまうだとか。 そんな事が頭をよぎっては口を重くさせた。 気持ちも不安になってくる 何せ相手は人魚なのだ! 用心に超したことは無いと思う。 そんな事をグルグル考え返答に詰まっていると軽いパニックに陥った。 ええい、いつもの沈着冷静な自分は何処へいったのだ! 焦る自分に動揺しさらに泥沼へと思考が沈む こんな事は初めてだ。 大学の弁論大会で余裕しゃくしゃくだった自分がひどく遠い所にいる いったいどうなっているのだ!?これは!! 顔を瞬く間に青や赤に染め上げる私を、ガルマは熱でも出たかと手を当てる。 ・・・・その時、ふと気付いた 私は多分、彼の船で帰ってきた筈だ。 もしかしたらガルマは、人魚の魚影ぐらいは見ているかも知れない 私はふっと息を吐いて腹を括ることに決めた。 『ガルマには聞かなくてはならない』 |
私の書くものには何故かガルマ氏が多い。多分好きなのかしら??
私は書くときに出来るだけ感じを出そうと声優さんの声を必死で思い出したりするのですが、
ガルマ すんなり思い出せる→アムロ、時々分からなくなる→シャア 良く忘れる といった感じです。
・・・つまり書きやすいんですね。
ちなみに、ここでのアムロはコバルト色の瞳&赤味がかった茶色の毛 (自分メモ) です。シャアム小説ですからご安心を。