Mermaid in the Sea   <第一章 人魚のいる海>



Kiss −キス−   









深い深い海の底 その一面蒼の世界で 君は私にキスをした

海流に揉まれ 泡にまみれ キスをしながらくるくる回って

ゆったりとしたその世界で 額を寄せ合い頬笑み合い・・・

私はずっとそこにいたかったのに 君は私を海から出した。


そして深いキスをする   深い深い・・・


不意に苦しくなり 少し むせた。 君はゆったりと身体を離して私を見る

逆光でよく見えなかった姿が 次第に見えるようになると私は息を呑んだ。

濡れた体は柔らかなラインを描き若々しく瑞々しい 官能の権化だ

鮮やかなコバルトブルーの瞳 それを引き立てる赤みがかった茶色の睫毛

同じ色をした髪は柔らかそうで 水をしたたらせながらカーブを描いている

今まで私に触れていた唇はチェリーのように色づいてぽってりとしており

ああ、今までキスをしていたのだからな・・・

そう考えたら 妙に、濡れた唇が誘うように見えて もう一度キスをしたくなった。


もう一度・・・


ふいに唇が弧を描き 私に聖母の様な笑顔を零す

”良かった” と呟いた。



―――――――その瞬間、  私は君に恋をしてしまった



優しさがこぼれ落ちる 素敵な頬笑みの人魚





そしてゆっくりと世界は暗転していった。











***









目を開くと見慣れたホテルの天井だった。
・・・あれは夢だったのか?
違和感のある額に手をやると額にビリッと痛みが走る
手触りから、ガーゼのようなものが貼られているのが分かった。


「気がついたか?シャア」


横に目をやると、親友のガルマがほっと息を吐いた。
彼とは幼稚園から大学まで一緒という、超腐れ縁の仲だ。


「・・・ああ、ガルマ 」


私はぼうっとしながらガルマに返事をする。
今の今まで人魚と戯れていた幸せな夢の感覚が薄れてしまうのは忍びなかったが
そう不安げな顔でのぞき込まれれば答えぬ訳にもいくまい
そんな思いとは裏腹にガルマはすまなそうに続けた


「悪かった、シャア。俺が無茶したばかりにこんな事になって。
お前が目を覚まさなかったらどうしようかと、本当に肝が冷えたよ」


そう言うと彼は、おもむろに脇に置かれた水差しを取って少量を私の口に流し込む
冷たい水がするりと喉を潤すと、残念な事に頭がはっきりと覚醒してきてしまった。
・・・もう少しぼうっと夢心地気分を味わっていたかったのに・・・。

・・・それはさぞ肝がひえただろうなとシャアは思う
自分は小国だが、一国の王子だ
彼に非は無くとも受けるダメージは大きいだろう
もちろん、心配の理由がそれだけじゃない事もよく知っている
もう、彼とは長い付き合いなのだから。


「気にするな。・・・それより、イセリナ嬢はどうした?」


その言葉を聞くとガルマはとたんにはにかんだ照れ笑いを浮かべた。
こういう素直な質が”おぼっちゃん”と陰口を叩かれる原因でもあるのだが
自分が彼を好ましく感じる一つでもある。
プライベートまで腹の探り合いでは、いささか胃にもたれるというものだ


「とりあえず帰って貰った。お前が気がついたら連絡を入れると言ってある。
・・・だから後で電話するよ。それよりもシャア、頭を打ったんだ。もう少し休め」


ガルマは上掛けを直すともう一度水差しを手にした
それに私は首を振っていらないと答え、微睡みはじめた目を閉じる
彼は横で付きそう気らしい






・・・・また、君の夢が見られるだろうか?






朧な人魚の姿を思い浮かべると 遠くに潮騒の音が聞こえた。

















まだるっこしくてテンポの遅い恋愛小説、といった感じでしょうか。
この話は色々なオハンシを沢山詰め込んだ 著作権やばすぎだろ、オイ、っといったものです。
ご容赦下さい・・・モチーフだけです!だけですってば!話だけでなく筆まで遅くて恐縮のかぎりです。いやはや。



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