After noon Tea 「…もうすぐ無くなってしまうな」 呟かれた言葉はひどく残念そうで。 振られてさらさらと鳴らす茶葉の缶 もう半量になってしまったピンクのジャムの瓶 缶は漆黒 ビンのラベルも黒で そこには同じ独特な絵が、白く抜かれている。 *** 「ミロ?」 仕事で下に降りる途中だからと天蠍宮の私室を開ける 時々彼の気配はひどく読みにくくて いるか居ないか分からない。 今日はビンゴ 奴はテーブルで茶を飲んでいたのだが、…その表情に、俺は見てはいけないものを見てしまった気持ちになった。 目が潤んでいる どこかうっとりしている。 「…カノン?」 呼ぶ声が掠れていて耳に残る 気だるげな流し目は壮絶に色っぽい 「!……………………………/////////っっ!!」 目を離さないまま口元を覆いごまかそうと必死になってみた。 だがニブチン大王のミロはやはり気が付かぬ様子で「仕事か?」と下を指す 頷く俺に“今茶をいれるぞ”と立ち上がるミロ その動きはやはりだるそうで、………そう。これはまるで、 事後のような… 俺は余計に妄想が膨らんでしまい 俯いて動揺を隠しながらも光速で頭を働かせた もしや、今の今まで抜いていたのか? いや、あり得ない。 どこをどう見ても茶を飲んでいるだけだ そんな素振りもまるでなかった いや、待て。激しいのをした余韻かもしれない ならば…ここに立ち入れて時間的余裕があった者……!…ア、ルデバラン?! あ、奴は午後に外に出ていたか。 … だとすると独りでか!?…! くそ、想像するな…自分!!(←ちょっと鼻の奥が熱くなったカノン) だが、まて ヌクぐらいであんなに消耗するはずが… ……! 〜〜っ! まさか独りで?独りで後ろを使ってか…!! 鼻血が出そうになったので書類でパタパタ扇ぎながらクールダウンを目指す 何処かに目をやろうとするが、飛び込んでくるのはヘアスプレーの缶やら良さそうなサイズの香水のビンだとかで。 終いには日本土産らしいKOKESHIまで目についてクールダウンは見事失敗。 ギクシャクした動きでテーブルに手を付くと甘い匂いのするハーブティーが注がれていて。 とにかく喉を潤そうと手に取ってミロに叫んだ 「いや、構うな!ちょっと寄っただけだからこの飲みかけので構わん!少しもらうぞ!」 「あ!まてっ!!」 口に付けようとしたらミロから待ったがかかった。 焦って振り返り今すぐ入れるからそれを飲むなと釘を刺してきた 何を焦る?たかが茶ごときで 興味が沸いてカップの液体に気を向ける 鼻先に届く香りは酸味と甘みのすばらしい香り 色は美しい鮮やかな赤 沈んでいるのは薔薇の花だろうか? 見ればテーブルの端にピンクの薔薇のジャムがあった。 悪くない趣味だ ポットを覗いてみれば入っているのはローズヒップと何種類かのハーブティー まだ十分温かく2人分は余裕である 自分もハーブティーロシア風を飲んでみたくなりミロに言った。 「ミロ、これはダメなのか?まだたくさんあるが」 「う〜〜ん、コッチにしろ。ダージリンとアールグレイはどっちがいい?」 「これが良い。」 「ダメだ。それもう葉が残り少ないやつなんだ!飲むな〜〜」 「ケチケチするな…」 手に持ったカップを口に付けようとしたその時… 「カノン!」 あまりの真剣な声色に俺はカップを止めてミロを見た。 奴は、呆れたようにため息を付くと 「いいけどな、後悔はするなよ?」 「どういう意味だ?」 「それ、毒なんだ。しかも猛毒な。一口飲めば喉に穴が開く」 と言った。 もちろん俺はカチャンとカップを置くと 「アールグレイのアイス、ストレートで」 とミロにオーダーし、静かに向かいの席に座った。 「で、何故毒を飲む」 ミロの持ってきたアイスティーをストローでカラカラ回しながら、信じられんと奴を見た。 ミロは先程のどこかうっとりした顔で茶を飲みながら「旨いから」と事も無げに言った 「どれぐらいの毒なんだ?」 「人間の致死量か?…抽出した液体で0,1グラム そのジャムが0,001グラム」 「何だと!?お前俺を殺す気か!!?」 「だから飲むなと言っただろうが!」 「なぜお前は平気なんだ」 「俺を誰だと思っている? まぁ、これは修行の一つとも言えるかもしれんな…」 「おかしな奴め」 「いっぺん死んでみるか?」 悪態をつきながらも、ミロは香りを楽しみながら液体を舌で転がし嚥下する どこか艶めかしく見えるそれに、俺は何だか恥ずかしくなりつつ顔を逸らしたりこっそり覗き見たりした。 潤む瞳が官能的で …ああ、やはりコイツは毒虫なんだなと改めて自覚した。 刺されてしまった俺は、もう毒が回りきって死にそうだ。 「この毒蠍め…。」 「うるさいぞ、カノン…」 落ちる日差しが柔らかく俺たちを包む 何だか時間が止まったような甘い午後 茶葉の缶には黒いラベルにドクロのマーク 同じラベルのピンク色の薔薇のジャム それを愛しそうに大事そうに見つめては、惜しいとばかりにゆっくりと味わう 彼の人は真っ赤で甘い毒を飲み、ゆったりと微睡んで空を眺めた。 (END) |
今回はもっとかるーいお話。ある日の蠍座と新双子座の甘い午後v
ミロと毒薔薇使いの特性