Sideミロ 始まりの空







空が青い。




晴天の空、照りつける太陽の下 壊れた石畳を直す俺たち
こんな暑い日はホントはカミュと一緒にシエスタで過ごす午後が好ましい
カミュと一緒にいるととても涼しくて気持ちがいいのだ。



いればの話だが。



アイオリアが汗をぬぐってミロ、と俺に微笑みかける
それをぼーと見ていると、子供に戻ってしまったのかと錯覚してしまいそうだ
俺に笑いかけるアイオロス…全てがまぶしかったあの時の空気



もうアイオロスはとっくにいないじゃないか。



大きな石を軽々と持ち上げるアルデバラン
同い年のクセにでかい図体のせいか妙に兄貴っぽい感じがするんだよな。
そうそう、老けてるって言っていつもデスやディーテがからかっていたな、
それをシュラがたしなめたりして…あの三人はいっつもつるんでいたよな 楽しかった



3人とも 死んだ。







ああ…暑いなぁ……








確かちょっと前も同じ事があったような…あれは、いつだった?
ボンヤリした頭で空を見上げようとしたらムウが顔を近づけてきて俺を覗き込んでいる
『ミロ?』声が遠い。何を心配そうな顔をしている?大丈夫さと奴に笑って見せた
そう言えばお前、しばらく見ないうちに大きくなったな、ホント。


『ミロ?』


処女宮が見える … 跡形も無いくらい壊れちまって、…はあ。 あれを直すのにどれくらいかかるんだ
きっとシャカが怒り狂って早く直せと急き立てるんだろうな…それでもって自分は何一つ手伝いなんかしやしないのだ きっと。
いつもの調子で“なぜ私がそのような事をせねばならん”とか平気で言うだろうな


……あれ、…シャカは…シャカは死んだ?


胃がすっぱい。
あれ…?前って何だ…?前…?聖域が…壊れて…?…俺たちが、直して…



アテナに跪き上へとあがる

巨蟹宮 無数にあった人面と共に姿を消していた。ただ、聖衣がそこにはあっただけ

無人の人馬宮 アイオロスの意志は少年達に託されていた

磨羯宮 倒れる紫龍を見守るように、やはり聖衣だけがそこにあった

宝瓶宮 カミュよ…俺はお前に嘘を吐いた。先に死ぬのは俺だなと笑ったあの日…
まさかこんな事になってるなんて…こんな…

双魚宮 花に埋もれる様がとてもらしくて、

…そして。




『はかどっているかね?』


偉そうな声。そう、これはシャカ
日差しをまぶしそうに眉をしかめて俺たちに話しかける
そう、シャカは生きている。


『おい、どうした』


懐かしい声


…あ、れ? …でもおかしいじゃないか。

俺が見たあれは、…何だったんだ?


血にまみれた、あの、………死体。安らかな顔、懐かしさに絶望する。こんな近くにいたなんて
見下ろす自分、これは…夢? 遠い昔に見た悪夢…
『これしかなかったのだ…』
そう呟いた声はとても冷たくて、これが自分の声だとは と物悲しい気持ちになった。



『ミロ?貴方具合が…』これはムウ 『腹が空いたのか?』いや、食欲が無くてなアイオリア
『日に当たりすぎたか?』こう暑いと参るなアルデバラン『キビキビ働きたまえ』分かっているさシャカ

『顔色が悪くないか、ミロ』 … 
…君は、誰だ?




懐かしい声




懐かしい顔




…おかしいな。




おかしい。






カミュはとても冷たかった。デスもシュラも何も残さなかった。
ディーテは芝居がかっているみたいに綺麗で…じゃあ、あれは?





生き返った…?サガ?
あ、…じゃ、じゃあじゃあカミュも!
デスやディーテやシュラは何処だ!?




俺の顔に手が触れて瞳の中を覗き込まれる
懐かしい顔 懐かしい声 『おい、少し休め』
大丈夫だよ、大丈夫なんだ。俺は全然大丈夫。
笑った俺にあの言葉がどこからか聞こえて頭の中に響き渡っていく
サガが俺に良く言い聞かせたあの言葉 あの時言われた言葉 あの表情!

『ミロ、いけない』


ぞくりと首の後ろに何かが走ったけど気付かないようにサガに笑って見せた
ああ…ぐるぐる回る
生々しい記憶… 頭の中に渦巻いていく…

重かった。凍っていた 花だらけだ
血がまだ、どくどくと流れた。辺り一面凍てついてた
ずっと騙されてた。騙してた。嘘を… なぜ話してくれなかった
懐かしかった。もう一度声が聞きたい なあ、皆何処へ行ったんだ?
憎かった。愛していた。なぜこんな事になったのだろう
逢いたかった。もう一度笑って欲しかった。傍に、傍にいて欲しい
段々冷たくなる身体。お別れの時、空っぽになってく心
あの時連れて行かれた。心を一緒に埋められてしまった。
棺に入れて土をかける…

「ぐっ… …!!!」

頭がぐるぐるとして吐き気がせり上がる
ふらつく足取りで道ばたまでたどり着くとグペっと胃液を吐きだした。
はっ、と息を吐き出して口を拭って出来るだけ明るい口調を心がけて。

「ムウ、白羊宮で小休止な どうも俺日射病みたいだわ」

「はあ…どうせですから天蠍宮まで運びます。この借りは高いですよ?」マジか、ムウ。お手柔らかに頼む
「おい、ミロ平気か?」ああ、平気だ。済まないが後をよろしくなリア
「ゆっくり休むんだぞ?」アルデバランも無理をするなよ
「日射病とはだらしのない男だ」なまっちろいお前に言われたくなかったぞ、シャカ
「あとで寄ってやろう」助かるよ… … …。



天蠍宮の私室のベッド
ムウに軽く介護されて深い眠りに落ちていった。



聖戦後…
荒れ果てた聖域に、アテナの元に、死んだはずの聖闘士がぽつぽつと舞い戻った。
アテナを守った青銅聖闘士たち…嘆きの壁で果てた俺たちの中からは俺、ムウ、リア、アルデバラン、老師に、そしてシャカ。
青銅達はアテナを守り、とりあえず俺たちは聖域の復興に。
…そうそう、それがアテナが12宮に舞い戻ったあの時に似ていて混乱してしまったみたいだ。

目を開けると、日が暮れていてそこになつかしい顔が。
でも違う …そう、彼も戻ってこれた

…ごめん。
サガと間違えてしまうなんて、どうかしているな。


「やっと起きたか。…フ、案外と軟弱なんだな」
「カノン、お前はデスクワークばっかりだからそんな事が言えるんだ」


羨ましかったらやってみろと鼻を偉そうに鳴らして頭の濡れた布を変えてくれる
言葉と裏腹に手つきがすごく優しくて、そんな仕草が似ていると感じると
…そう感じた事が後ろめたくて起き上がった


「仕事は終わったか?ロドリオ村に飲みにでも行くか」
「生憎だがまだ仕事が残っている。終わらせないとシャカがうるさくてかなわん」


現在教皇代理?はシャカが勤めている。
補佐役は主にカノンが担当(まあ、実際の仕事はほとんどカノンがしている筈だ)
アテナは何やら老師と一緒に忙しそうに動き回っていて、護衛はとりあえず青銅達が。
人手不足、雑兵不足、ないない尽くしの聖域では俺たち黄金聖闘士も汗水垂らして修復に励み
ムウはそんな俺たちから血を搾り取って、トンカントンカン聖衣を直す毎日を送っている。


「ちょっとぐらいは息抜きをしろ あそこのチブロのカクテルをまた呑みたいな」
「…酒は止せ 分かった。付き合ってやるからたまにはしっかり食べたらどうだ」


はいはいはい、そうするからと良い子の返事で答えると、カノンがほっと苦笑い
着替えて外へ出ると気持ちよい風がそっと頬を撫でた。
渋々とした態度を装ったカノン
だが、息抜きをそんなに嫌がってはいないだろう


「後で俺も手伝おう」
「ふん、これぐらいお前などにやらせなくともすぐに終わる」
「何だ、二人でやったほうが早いだろうが」
「お前がやると余計に手間がかかりそうだからな、遠慮しておこう」
「失礼な…好きではないが不得手では無いぞ」
「は、どうかな?」


アルデバランやアイオリアより少しくらい得意でもな、などとカノンが馬鹿にしたように笑う
それに随分な言い様だと眉を顰めながらも、あの二人の書類仕事の不向き具合を思い出して俺も笑った。


そして俺達はいつもの様に馬鹿話などで軽口をたたき合いながら、村へ向かって階段を降りていったのだった。









『これしかなかったのだ…』

ミロ視点からの現聖域の現状でした。一応言い訳としては聖戦から幾らも立ってないと言うことで。
時間的な事を細かく入れると…ノンタンの年がね…永遠の28説で行きたいと思ってるんですが無理っぽい?


生き返った人間と、そうでない人間の違い