TIPS たまには子供の時のように














「何だよ、ぼーっとしちゃって」





俺に声をかけてきたのはやはりミロだった。
というか、俺に声をかけてくる輩など決まり切っている。
俺は聖域の鼻つまみ者だ、神官雑兵はもちろんの事、聖闘士の中でも俺を蔑む者は大勢いる
そんな中 このように気軽に声をかけてくるのは同輩のミロぐらい
他の同輩共も俺に対して変な扱いはしないのだが、その多くは外に長く出されている事が多い
それに比べ、ミロは逆に聖域に殆ど留まっている。
奴がここを出て行くのはミロス島に帰る時か(奴はミロス島出身だと聞いた事がある)
勅命が下りた時。だがその勅命も酷く少ない上に、事務的な物がかなり多い
それが何故だかは知らないが、同じく謀反を疑われて飼い殺しにされている自分にとっては
救いのひとつでもあるかもしれないと時々思ったりする物だ

「別に、お前こそ何だよ。珍しいじゃないか、下まで降りてくるなんて」
「ん〜、まぁ気晴らしだ。ここは見晴らしがいいしな」
「花も、咲いてるしな…ここは夕日が綺麗なんだ…」
「??…随分とロマンチックな事で」

ミロが俺を訝しげに覗き込んでいたので、俺は咄嗟に持っていた花をぱっと放って尻をはたいて立ち上がった
何で俺が焦ったか。それはミロのヤツ、普段はヘラヘラしてるクセに(外面はまた別だ)何でだかすこぶる勘が良いのだ
で、今俺がここで夕日を眺め花を弄って考えていたことは奴に知られたく無いことで。
別に…知られたからどうとか、では無いのだが。まぁ、強いて言うなら照れくさい。
いや、そんなモンじゃないか。はっきり言おう、恥ずかしい。
ここで、魔鈴の事を考えながらボーッとしてた事を知られるのは非情に恥ずかしい。
とにかく話題を変えようと何かあったかと考えた所、何でミロがココにいるのか不思議に思ったので口にした

「あれ?おいミロ、今日確か上で祭礼だか何だかやっているんじゃ無いのか?」
「ん?ああ、アレな。…ツマランから抜けてきた」
「いいのか?後で大目玉食らうんじゃないのか?」
「ふん、祭事と言っても琴の鑑賞会だ。俺にはもう退屈すぎてな」
「成る程、お前に琴の善し悪しは分からんだろうしな」
「言ってろ!」

今度は逆にミロが座り込んだ。その時微かに顔を歪めたのでどうしたものかと覗き込めば…
聖衣の隙間から赤いものがチラリと見える
良く見るとミロの足に何か…太い物が突き刺さっていた

「おい!どうした、お前怪我してるのか?」
「あ?ああ、これか。…ちょっとヘマをした」

ヘマが何かは知らないが。ミロから詳しく聞くことは出来ないな、と俺は思った
この一見陽気で影など無さそうな幼なじみは中々に秘密を好む質のようで 喋らない と決めたことは頑として話さないし
隠し事は得意のようで、発覚してビックリ!なんて事はしょっちゅうなのだ
で、奴がヘマをした〜何て曖昧に返すのならそれは聞いて欲しくない事なのだろう

「…そっか。…………動くなよ」
「ん。…………」

奴の足を押さえて、念力で埋まった物をゆっくりと引き抜いた
半ばまで取り出して後は指でゆっくりと引き抜く
相当深く埋まっていたので激痛だろうに、ミロは呻き声ひとつ洩らさず涼しい顔で傷口を見ていた
本当にコイツは痛みに強い。それが良いか悪いかは分からないが(だって戦士としては痛みに耐える力は必要だろう?)
ミロの場合は行き過ぎだ。その所為で昔死にかけた事がある程なのだから




ふと先日の事を思い出してミロの体に触れる
いつも治す際に痛みなど気遣った事が無かったが、もっと優しく治療できないものかと。
どうやれば良いかは皆目見当も付かないが、とにかくチャレンジあるのみ!
そう思って小宇宙を緩やかに出して裂けた皮膚を繋ぎ合わせていく…のだが

「…?ぶはっ!!やめろリア、何かくすぐったすぎる!」
「ち!動くなっていっただろ??」
「いや、だけど…何かいつもと違く無いか?いつもはもっとこう、さ…」

(…コイツ、変な所で鋭いんだよ)
内心舌打ちしたい気持ちだ。下心…無いと言えば嘘になる
そう、この次魔鈴を手当てする機会があるのならもっと痛くないように出来ないものかと思ったのだ
で、今その実験をしているわけだが…それはコイツには知られたくない訳なのだ

「気にするな、どっちでも一緒だろ」
「??…くっ………リア、…ぶはっ、……何か、隠してるだろ?」
「な!!?」
「お前、うひっ 〜〜〜…隠し事する時、左眉が上がる」
「!!!」

咄嗟に片手で眉を押さえるとミロが意地悪く笑った

「嘘だ 眉は動かん。…で?……何でこんな、…くすぐったくしたりするんだ?」
「おま…!汚いぞっっ!!」

結局。先日の出来事をミロに話す事となり その練習なんだと奴に告げた
ミロはキョトンとした顔で“なんだ、ならばそう言えよ 幾らでも協力するぞ”と言ってくれた
一瞬、恋路(?)の応援も期待してしまった俺なのだが…

「鷲座か。そういや俺がジャミールに持って行ったんだ、聖衣。そうか、良い奴なんだな…えーと、リン、だったっけ?」
「魔鈴」
「マリン?」
「そう、魔鈴」


“良い奴”か、ミロらしいな と思った。
きっとミロは俺に新しい友が出来たのだな、くらいにしか思っていない。
と言うかきっとそうだ。コイツに恋愛の感覚等を期待してはいけない。

…実はミロにあまり性別の観念はないようだ。もっと適切に言えばこの幼なじみは酷く色恋沙汰に疎かった
この見栄えなので、そこいらの女連中のミロの人気はメチャクチャ高い
ミロも妙に女に対しては(女聖闘士を除いて)実にフェミニストじみていたりするものだから更に。
で、たまにミロが宮から出てくれば女は一気に集まってくるし 結果侍らせている事になったりする。
俺は一回見た事がある。ミロに優しくでもされたのだろう女官が教皇宮の回廊でミロに抱きついて告っていた
それにミロはにこっと笑って“嬉しいな”…と宣ったクセにやんわりと身を離した。
それから女官は訥々とミロへの気持ちを語るのだが…ミロは不可思議な顔でそれらを聞くと脈を測ったり目を覗き込んだりしだした
どうやら病気と勘違いしたらしい。どこまで天然なんだ?お前は。
で、これに焦れた女官、強硬手段に出るも、これもミロに軽くいなされる
奴はキスされそうになったのをやんわりと手で払って
“もしかしてSEXが望みか?…悪いが俺はそういう対象にはならない”と言った。
もちろん女官が顔を真っ赤にして走り去ったのは言うまでもない
ミロはキョトンとした顔でそれを見送ると何事もないように歩き出した
さすがに それはないだろ、ミロ! と俺が顔をだして問い詰めれば
またもやミロが分からないと言った風な顔をした。

『変なんだ。仲良くしたいと言われたのでよろしくと言えば、キスされそうになった』
『あのなぁ〜あの場合の“仲良く”は恋人としてだろ絶対』
『コイビト。…やはりSEXの相手か。じゃあやはり断って正解だったな』
ウンザリしたヤツの顔がやけに印象的だった。
『おまえ、そんな明け透けに…』
『男も女も好きだな、アレが。断るこちらの身にもなって欲しいものだまったくさ』

…と、こんな調子だ。
こんなミロに甘〜い恋愛の感覚は無いと言っても過言じゃないだろう!絶対に!



「協力はするが…くすぐったすぎるのは何とかならないものかな なんかむずむずする」
「お前痛みに強すぎるから、これでももしかしたら痛いかもな〜。今度はもっとソフトに…」
「や、や、止めれ!!はわっ」
「動くな!とにかく練習あるのみだろ!!今後傷を負ったら俺のトコ来いよミロ」
「冗談だろ!?あ、んな… くわはっっ!!……これじゃ罰ゲームだ!罰ゲーム」
「怪我する方が悪い!大人しく練習台になれ!!」
「ち!畜生めっっ!!早く終われッ…ぁ、はうっ!」

一通り治療を終えると、何となく二人で黙り込んで夕日を眺めた
花が風に揺れる様が愛らしくて何となくぼーっと眺めていた
それだけで何だか救われた。…そして、それは俺だけではなかったようだ

「最近、上宮がピリピリしててな。…息が詰まって仕方ない」
「そうか。こっちもあんまり良い感じじゃ無いな」
「……平気、なのか?」
「平気さ、…その、友も出来たしな。それよりこんなトコでぼーっとしてて良いのかよ」
「今日ぐらい良いだろ 所で、ここに良く来るのかアイオリア」
「ん?んん、まぁな!ほら、あんまりここって人来ないだろ?だからさ…」

そうか、と ミロが遠い目をした。何かを懐かしむような目をする
こんな優しい目をするようになったのだな、と俺は感慨深くミロを見た。
昔のコイツはただただ無邪気な生き物だったのに、随分と大人になったなと
そうだな、俺達は随分大きくなった。そうさ、子供のままではいられなかったのだ 誰しもが

「そうか。俺もココは嫌いじゃない 花が、咲いてるしな…」
「ほ〜お? …ミロのクセに随分とロマンチックな事で!」

花の匂いを嗅ぐミロにそう返してやれば、今度は奴がパッと花を放った

「何だと?アイオリアのクセにッ」
「良く言う!ミロのクセにっっ」

そう。俺達は子供のままではいられなかったけれど。
それがここでは当たり前の世界だけれど。
…だけれど、今ぐらいはいいでしょう?女神



俺とミロは久し振りに子供のようにじゃれ合った













ジャミールに鷲座のパンドラボックスを持って行ったミロ



この辺誤解が多そうだと思って、まずは解答その1から。

Q:リアとミロがデキているのか?
A:否。つまり誤解が生んだ顛末 の誤解とはリアとミロの肉体関係の事、でした。

痛みに強いミロ。恋愛感覚の皆無
秘密主義の友人の、知られたくない事。それは星の数ほどあるようです