強く、君を守れるぐらいに。

















「観光に来てさ、子供を捨てんじゃ無いよ」




本当に観光に来たかは知らない
もしかしたらあの後親は自殺でもしたのかもしれない
でも、何もかもが分からなかった
言葉も全然分からなかった。
気が付いたら弟と二人でこの地にほうり出されていて。
後はただただ盥回しだった。色んな私設を転々と
その間に弟とも別れてしまって

そんなある日に聖域からのスカウトを受けた
訳が分からなかったが、そいつの吐いた一言にアタシは大きく頷いた。

『弟を探したい?なら、聖闘士におなり。力が手に入ればきっと見つけることが出来る』



バーカ言ってんじゃ無いっての。
見つからないじゃんか。弟、聖闘士になったってさ



水を含んだ風が気持ちいい
花を踏みしめてただ泉の色を仮面越しに眺めた。
ここはめったに人が来ないから気晴らしには打って付けだ
今、アタシに対しての風当たりはひどく厳しいものだから

フ、と皮肉に笑いながら横に置いてある鷲座のパンドラボックスを眺めた。
聖衣継承の候補者達を残らずぶちのめして手に入れた力
アタシ用にカスタマイズされてはるばるジャミールから戻ってきた聖衣

「力、か…」

その時声がして、誰かがこちらにやって来るのが分かった。
とっさに身を隠す。これを盗られてぶち殺されるのなんてゴメンだね
アタシは力が欲しいのだ。もっと、もっと。
ここではそれが全てだ。弱い者は喰われて蹴散らされて泣きを見る
いや、違うね。世界がそうなのだ。アタシは嫌というほど味わったじゃないか
蔑まれ、叩かれ。弱者は食い物にされるだけだというのを身をもって知った。
力が欲しい。もっと、もっと。
弟を見つけられるくらい。
そして今度は…



「どうした逆賊?ほら、受けてみやがれッ!」
「ははは!抵抗しないのか??レオが聞いて呆れるな」
「…………やめろッ…………やめろぉ………」



アイツか。
岩影からこっそりと伺うとアイオリアがリンチ喰らってるのが見えた。
良くやるモンだ、まったく と呆れかえりながら岩陰でゆっくり休もうと決め込んだ。
もちろん助ける訳がない。そんな貧乏くじ引くような真似したらもっとアタシの風当たりが強くなるじゃないか
それに、白銀が数人がかりったって払えないアイツでは無いだろうに。
アイオリアは黄金だ。アタシ達の最高点の象徴、88の聖闘士の光り輝く選ばれし12の者のひとりだ。
コスモだってアタシ達がいくらやっても及ばない程に猛々しいものを持っている
それが今になると良く分かるよ、ホント。嫌味なくらいアイオリアは強い
それなのに何を戸惑って嬲られているんだか… 趣味とか? マゾなのかい? アイオリア

「俺は、俺は兄とは違う…」
「は、本当かな?神官共はお前も手引きしたと疑っているぞ?」
「違う、違う…」
「ほらほら、お相手して下さいよアイオリア様ッ…!これじゃあ手合わせ出来ないだろぉ」

蹴りをまともにくらって蹲るアイオリア
あ〜あ、目が当てられないよ まったくさ。

「ひゃははは!こいつこの事言うとホントダメなんだな。いつもの強気はどうしたよ!?」
「やっぱりホントだからじゃねぇの?これでもくらいな!!」
「…………………ッ………………ッ………!」

ばっかじゃ無いの?アンタはさ、力があるじゃないか。蹴散らせばいいのにさ
アタシが喉から手が出るほど欲しいモノをもってんだろ?
なのに使わないなんて、それは傲慢ってヤツじゃないのかい?

「兄を……兄さんを悪くいうなぁ!!」
『姉さんを……いじめるなぁっ!!』

その時、アイオリアの叫びに、何故かアタシの弟の声が重なった。
孤児院での辛い日々、まだ一緒だった頃。
新参者だと虐められたあの時にちっちゃな身体を目一杯に広げてアタシを守ろうとした、アタシのただ一人の弟。
そのあと二人共ボコボコにされたけど、すごくすごく嬉しかったんだ。
すごくすごく…。あんなに嬉しい事は無かったんだ。

…ああ。 バカだな、アタシ
どうして強くなりたいかって、そりゃあ決まってる事だったのにね。

「止めな、アンタ達」
「何っ!? は、何だよ魔鈴かぁ…何だ?外れ者同士かばい合いか?」
「フン、そんなんじゃ無いけどね。アンタ達の息が臭くってさ、近くにいられると虫唾が走ってしょうがない」
「な、なんだとこのッ…!やっちまえ!!」
「ふん、返り討ちにしてやるよッ!」

ああ、そうさ。
殴られ蹴られ、殴り飛ばし蹴り返しアタシは思った。
アタシは力が欲しいのだ。もっと、もっと。
弟を見つけられるくらい。

肋が一本いかれた。だけどアタシもタダじゃ済まさない。
顔をぶん殴って歯をへし折ってやった

そうだ。力が欲しい、もっと、もっと!
弟を守れるくらいに。今度はきっと守ってみせるよ!
叩かれぬよう、蔑まれぬよう、誰からも、世界からも、アタシが守ってやるんだからッ!

「グッ…………!」
「女のクセにッ!くらえッ」

クソッ…、さすがに同輩3人相手じゃキツイっての!
クソクソクソッ…絶対負けない、負けたくない!
ここで殺されて聖衣を失うなんてまっぴらゴメンだ!
アタシは弟を見つけるまで絶対死なないんだから!!

「アイオリアッ!この腰抜けッちょっとは手伝いなぁ!!」
「は、は!この猫野郎に何言っても無駄だぜ!?オラァ」
「くそぉ…アイオリアァ、アンタのコスモは見せかけかい!!」
「へッ…死にな魔鈴!!この出しゃばりの東洋人がぁ」
「あう!…ィォリアッ守りたいモンがあんならねぇ体張らなきゃなんないんだよッ!」
「止めだぁッッッ死ねぇ!!」
「殺られるモンかぁぁ!アタシは死なないよ、守るッ!…リアァそれでも男かいッッ!!」

その言葉にぎっと睨んで反応したアイオリア
は、やれば出来るじゃない、そんな顔もさ。
一瞬にして膨れあがった黄金のコスモ …すごいねさすが黄金聖闘士

『ライトニング・ボルトォ!』

アタシを殺ろうとしていた男達はあっさりと光速で打ち込まれる拳の餌食となり
その場から吹っ飛ぶと這いずりながら逃げていった。
息を整えてアイオリアを見る。ぼうっとしながらアタシを見ていた

「ま、魔鈴済まない…君を、こんな…」
「いいよ、別に。アンタ助けた訳じゃないし…」

そう。これは別にアイオリアを助けた訳じゃない
アタシのプライドの為に拳を振るったのだ
コイツぐらい守れなくて、ちゃんと弟が守れるのかと。
強くて強大な敵でも臆さず戦って見せるのだと。あの時の弟のように。

だから、成り行きさと言ってアイオリアの隣に腰掛けた。腹が痛くてしょうがないよ…
まるでさ、昔のあの時に戻ったみたいだ。弟と二人でボコボコにされた懐かしい記憶
どうか、アタシが迎えに行くまで弟が虐められてませんように…
女神にそう祈ってるときにアイオリアがもじもじしながら口元を押さえた。

「ま、ま、魔鈴?…その、俺近くにいて平気か??」
「いやだったら、場所変えるけど?」
「そうじゃない!そうじゃなくて!!だってさっき口が臭いって!!」
「あは?あ、あっはははははは!アンタ面白いね、本気にしたの。あんな事」
「え、だって……」
「バカだね。タダの悪口さ、それにアイツらに言っただけ。アンタは違うよ」
「そ、そうか…… 良かった」
「アタシも良かったよ。今動くと辛いからね」
「あばらか?」
「あばらだね。」

するとアイオリアがおずおずとスマンとか何とか言って手を腹に当てた。
ああ、温かいコスモが心地良い。
そのまま岩に腰掛けて、泉に日が反射して輝くのをゆっくりと眺めた

「痛くないか?平気か?」
「痛くないよ、上手いね。…良く怪我とかするのかい?」
「ミロが… いつもミロが相手なものだから心配だった。アイツは痛みに強いから。…荒っぽくないか?」
「大丈夫…」
「……魔鈴、さっきは ありがとう」
「別に」
「俺、すごく、すごく嬉しかった…あんな風に、俺… う、う…」



『姉さん、姉さん、俺すごく悔しいよ… 次は、絶対守るから、ひっく、絶対に…』



ばかだねぇ、そんな事ないよ。 助けてくれただけで、アタシは嬉しくて嬉しくて…



アイオリアがなんだかあの時の弟に見えて、頭をぐしゃぐしゃ撫でてやった。
あんたさ、アタシより年上のクセにね。
全然姿形だって似てないのにね。
なんでこんなに似てんだろうね…
オトウトってみんなこんなもんなのかねぇ。



「泣けばいいさ …今はね。泣いてから強くなればいいのさ、アイオリア」



そう、アタシはもっと強くなる
もっともっと。色んなもんを守れるように



その誓いを胸に刻みながら、落ちていく夕日を黙って眺めた。














この場所は花が咲き誇り泉があるようです



色々捏造してすんませんその2です(笑)魔鈴さんも☆矢お約束の孤児院とじゃないかと思った自分でございます。
というか、これ書いた後に魔鈴さんの弟出てくるって聞いてビビッた。
あ〜捏造じゃ。オリジナル過去捏造してすまん魔鈴さん!!でも、彼女が大好きです。男より男らしい!
さて、ここで何故魔鈴さんなのか。それはTIPSを読めばわかります(ニヤリ)


アイオリアと魔鈴さんのなれそめ話v