幼き日の思い出 (7/Sideムウ/女神12宮突破直後) サガが自害した。 多くの犠牲を払って、今真実が明るみに出た。 私の戦いも、今やっと終わったのだなと思う。 その結末は実に後味悪く、うら寂しいばかりだった。 終わりとはそういうものなのだろうか。 私達にはまだ聖戦でさえ訪れていないのに、始まりではなく終わりを感じるのは不謹慎だろうか。 スターヒルに登り枯れ果てた我が師の遺体にそっと触れる。労るように触れてそっと目を閉じる 「しおんたまぁ…」 思い出の中の…しわだらけの、温かい手。 その手はもう冷たくなってはいたけれど 面影でさえ、残されてはいないのだけれど 「我が師シオン 遅くなって、申し訳ありませんでした…」 「良くやったな、ムウよ」 あの時の言葉が、風のように通り過ぎていって でも私は泣けなかった。もうそれくらいの時が私を変えてしまっていた それはそれで良いと思う。涙が、何になると言うのだろうか。 ただゆっくりと哀悼を捧げた。やることは沢山在るのだけれど。 今だけ、…今少しだけ。 どれぐらいそうしていただろう かつり かつり。 後ろから響く聖衣の音。黄金の鎧の反響音 その足音は私のすぐ後ろで止まると暫く立ってから声を発した 「ムウよ」 ミロだ。昔のような可愛げは何処へ行ったのやら、居丈高の振る舞いに低い声の蠍座 何なのだろう、このスターヒルにまで登ってきて私に何の用ですか? 女神を迎える準備を手伝えとかですか?死体の後始末の話ですか? 少し疲れながらも、彼に微笑んで見せた。今は泣く時ではない、歓びの時なのだから 「今行きますから、もう少し…」 「そうじゃない」 ミロがきっぱりと告げ言葉を投げる 「お前は…何時ぐらいから気が付いていた?」 ああ…そうか。 それは、そうだ。ミロ、シャカ、アルデバランにしたら寝耳に水の出来事。 アイオリアなんてもっと悲惨でしょう 長く暗い生活を、私は何もせずに静観していたのだから でも、知らせることが出来なかったんです。ミロにも、リアにも、誰にも、誰にも! 結果を考えると、どうしても。 「ずっと、確信が持てませんでした」 私を責めますか? …ミロ 臆病者だと、卑怯だと。信用してなかったのかとなじりますか? でも、出来なかったんです。どうしても、信用、出来なかったんですよ… 貴方はあんなにサガに懐いていたじゃ無いですか 怪しかったあの三人とも、誰よりも懇意にしていたじゃないですか 気が付かなかった、貴方も悪いと思いませんか? ……それに、貴方のあんな姿を私は見てしまったのです。 だから恐ろしかった。 打ち明けられなかった。 そんな私を、薄情だ等と罵るのですかミロ… きっと無言のなじりを、ミロは感じ取った筈だろう それがひしひしと分かった だけれどミロはじっと沈黙を溜めた後、そっと私の肩に手を置いた それは紛う事なき…悲しみを労る友のもので。 そう、それはいつか目にした光景 アイオロスが、そっとサガを労るような そんな仕草で。 「そうか」 どうしたんだろう… シオンの遺体を目にしてもぽっかりと穴が開いたように空虚だった心が。 ずっとやり終えなかった長い長い仕事を終えたような疲れと寂しさだけを感じていただけの心が。 ……じんわりと。 「…すまん」 温かく濡れてゆく 「…済まなかった、ムウ」 …貴方には悪いことをしました あの時、ジャミールまで来て暗に何かあるのかと尋ねていた貴方に打ち明けられなくて 私の方こそ、すみませんでした そう告げようと思っていたのに声は出なくって。 「気が付いてやれなくて、悪かった」 代わりにミロが謝っていた。涙が溢れて止まらなくなる 貴方、本当に人の弱点を突くのが上手ですよね… 言ってやりたくとも言えなくて、私はただ俯き涙を流しシオンを見ていた。 「ゆっくりとすればいい」 ミロは気を使ってそう言うといつの間にか出て行っていた 闇にかき消えるように気配がすっと無くなったその動作 ミロの隠された素顔の、ほんの一部 (今だけ……許して下さい…) 私はボロボロと泣いた。まるで子供の頃に戻ったように。さすがにあの頃のように高く声は上げなかったけれど。 決壊したダムのように忘れていた感情が後から後から溢れてしまう 私は何十年ぶりに大泣きしながら師の側にずっといた。そう、時間を忘れてずっと。 「ああ、シオン…」 いつしかしてくれた慈しみを 貴方に 今 返せますか? 頭を優しく、優しく撫でて 我が師シオンにお別れを告げた 「ふう、ゆっくり眠る事も出来んとは…」 お疲れ様です。もう大丈夫です、後は私達がちゃんとやりますから… やっと これで 貴方を眠らせてあげる事が出来ますね 「お休みなさい 安らかに…」 風に吹かれて空を見上げると 星が一層輝いて瞬いた |
さ、少しでも楽しんで頂けたでしょうか。捏造過去話
きっと色々ツッコミ所満載でしょうが…目をつぶってやってくだせぇ
あ〜これからイタイお話にもどりますよ!キリキリ行きたいと思いますv
“あの時、ジャミールまで来て暗に何かあるのかと尋ねていた貴方に打ち明けられなくて”
ちょっとめんどくさい文章でしたが、サガの乱まっただ中にミロがムウを訪ねジャミールまで行ったようです