Kedama様からお預かりした珠玉小説その2





※こちらはangel-ice / Kedama様のサイトの素敵な小説置き場です。
angel-ice様は無期限休止中との事なのでKedama様の輝かしい軌跡をこちらに飾らせていただきました。
まだご覧になっていない方は厳重注意をお読みになってからどうぞお楽しみ下さいませ。
尚、kedama様が復活された場合 こちらは返還いたしますのでその際はangel-iceでお楽しみ下さい。









※厳重注意

転写・コピペ・転載・転用・剽窃・お持ち帰りはご遠慮願います。
(対策としまして右クリックを禁止しております。)


CPは カノミロ前提の サガ×カノン でございます。
それを踏まえてお楽しみ下さい。




おk?



では、素敵な小説をご堪能下さいませv









Badcommunication/2







思いのほか痛烈な一打だった。



『私は、お前ほど強欲でもなければ、お前ほどあきらめも良くない』

双子の兄から放たれた一言は、カノンをハッとさせた。



思いのままに望みを叶えてきたつもりだったが、実際は、妥協とあきらめに淘汰
された欲望を拾い集めてきただけだった。苦い現実をかみしめさせられる。





『私は多くを求めない代わりに、欲しいものは必ず手に入れる』

そうだ。サガは、確信犯。



漆黒の魔性など、本当に存在したのかさえ疑わしい。



天馬星座に守護され、アテナにことさら寵愛を受ける不可知な潜在能力を有する
青銅聖闘士との死闘の末に、神の似姿から抜け出て消滅したとされる邪悪の影と
やらは、慈悲深く賢明なアテナのとっさに作り出したイリュージョンにすぎなか
ったのでは?



アテナは危惧していたのでは?

神の化身の誉れのままに、人智を超越した壮大ではかりしれない、その能力。

味方にとどめておく以外に、それを監視し掌握しておく手立てはないと。



そして、あまりに悪辣で残忍な彼の所業を容認するには、彼の乖離した人格の存
在を認め、周囲にも知らしめざるを得なかった。



諸悪の根源とされた悪の人格、その消滅を周囲にもしらしめることで、狡猾で残
忍な陰謀への断罪が果たされたとみせて、彼を味方として容認し、聖域にとどめ
る以外に手だてがなかったのではあるまいか。



すでに来たるべき聖戦を予見していたであろう女神の、苦渋の英断・・・それす
らも、彼のシナリオであったとするならば・・・




(まったく。・・・オマエが、同じ血を分けた兄弟とはね。)

カノンは、ひとり凄艶な微笑を浮かべる。



(だがな・・・そうと知ったらなおさらオマエには渡せないね。神だろうと悪魔
だろうと、サガ。オマエにだけは絶対に渡さない・・・)

真紅の妖星の宿命を持つ蠍座の聖闘士の、蜂蜜色の長い巻き毛に彩られた優雅で
傲慢な笑顔を脳裏に映して、カノンはゆるぎない決意を胸に抱いた。















「我が偉大なる女神には、ご尊顔うるわしく・・・」

教皇宮の奥・・・教皇と黄金聖闘士のみが足を踏み入れることを許されるアテナ
の神殿の玉座の前に片膝をつき平伏して、荘厳な双子座の聖衣に汚れない純白の
マントを麗々しくまとったサガは、冷涼な澄んだ声で言った。



「堅苦しいあいさつは良いのです、サガ。」

月に一度ほどの頻度で聖域を視察に訪れるアテナは、勝気な少女の美貌で、にこ
やかに制した。

「・・・聞けば、教皇職の実務の全権は、いまやあなたに委任されているそうで
すね。あなたさえ了承してくれたら、いつでも次期教皇の就任の儀を取り計らう
のだけれど・・・」



「恐れながら・・・この身は一度、邪まな悪魔にとりつかれた身。その罪はいま
だ購い難く・・・ましてや、現教皇シオンが息災であられるにもかかわらず、そ
の栄誉にあずかる気には到底なれません。」

自然なウエーブを描く高貴な蒼銀色の絹の髪を肩にすべらせながら、静かに上げ
た白皙の、まばゆいほどの清廉さ。



アテナは、愁いをたたえた美しいシャンパンカラーの瞳の奥に、その真意をはか
りかねてじっと見つめる。



(人心を自在に操る双子座の聖闘士・・・。なぜ、これほどに神々しく清らかな
の?)

現人神たる自分をもしのぐ、その犯しがたい高潔さ。



10代の愛らしい少女の容姿にはふさわしくない誇り高く尊大な表情を浮かべな
がら、なめらかな白いローブをまとったアテナは、かつてこの恐るべき異能の聖
闘士に互いの暗黙のうちにほどこした贖罪が仇にならないことをひたすらに願い
、自らを諭す。



(バカね・・・なにを恐れているの、私は・・・。全能の神を父に持ち、いまや
事実上、聖域と海界、冥界をも統治する戦闘の女神たる者ならば、常人には触れ
ることすら危険な、限りなく研ぎ澄まされた刀剣こそ、この手を飾るにふさわし
いものだわ。)



「・・・いかがなさいました、アテナ?」

美しすぎる諸刃の剣は、己を射抜く鳶色の意志的なまなざしを真っ直ぐに見つめ
返して、穏やかに尋ねる。



大いなる洗脳の術使いは、あの頃、自分自身をもその術中にとらえて、壮大な野
望を叶えようとしていたのか。

それとも・・・。



悪意の不在・・・という言葉が、アテナの脳裏をかすめる。



善悪は表裏一体。

かつては、兄が善で、弟が悪と思われていた。

でも、それを思い込ませたのは、誰?

他でもない、双子の兄。



悪意を持たない、悪。





サガにとっての唯一の誤算は、無二の親友アイオロスを死に至らしめた、その一
点だけ。

アテナの殺害未遂を、アイオロスが目撃さえしなかったら。



「謀反者」の討伐を命じられたシュラが、血みどろの射手座の聖闘士を抱え込ん
できたときには、彼はまだ生きていた。



教皇の実権さえ手に入ればかまわなかったサガは、もともと彼を玉座の傀儡とし
、教皇補佐として聖域を牛耳るつもりだった。



だから、瀕死の彼に幻朧の術をほどこして、自分の随意に操ろうとしたのだが、
輝ける正義の翼を持った射手座の聖闘士は、それを最後まで拒んだ。



幾重にも選択肢を広げた膨大で忌憚なきシナリオの、それだけが誤算。



・・・己の想像以上にダメージの大きかった、大きすぎた誤算。











「本来ならば、あなたを海界の統治者として任命したいところなのだけれど・・
・」

サガと入れ違いに女神の玉座の前に立ったカノンを見下ろして、アテナは、思慮
深く告げた。



美しい神の化身と同じ容姿を暗紫色のローブに包みながら、まるで雰囲気の違う
妖艶な色香を放つ、双子の弟。



「あなたには、どうしても聖域にとどまっていてもらいたくて・・・」



「・・・心得ております、アテナ。」

カノンは、優雅なしぐさで胸に手を当てて、兄より少し鼻にかかった低い艶やか
な声で、柔らかくさえぎった。



「カノン・・・」

フッと冷ややかな頬をゆるめた見透かすような微笑に、さすがの女神も思わず頬
を赤らめた。






「心得ております。私たちがなぜ双子としてこの世に生を受けてきたのか。そし
て、私に与えられた天命も。」

聖域きってのカサノヴァと言われた美貌が、ふいに、清廉な受難者である兄と見
まごう高潔な愁いを見せた。



「ご安心なさい、アテナ・・・。私が存在する限り、双子座の聖闘士は、誰より
も忠実なあなたの守護者・・・誰よりも強大で慈悲深い正義の聖闘士としてあり
続けましょう。双子座の聖闘士の弟たる、このカノンが一命を賭して誓います・
・・我が女神。」



「・・・ありがとう、カノン。」

アテナは、晴れやかに笑って、あっけらかんと本音を明かした。

「あなた方は、この私を不安にさせるほどの能力を天から与えられているのよ。




「そのような恐れ多いことを・・・」

カノンは、優美な眉を少しひそめた。



アテナは、明るい笑顔のまま首をふった。

「だからこそ、天はあなた方を二つに分けておしまいになったのだわ。サガと、
あなた・・・闘いの女神の両翼を支えるには、それ程の力が必要だったのよ。二
人の力が重なれば、それは神をもおびやかす威力を発揮するでしょう。」



「・・・だからこそ、私とサガは永遠に相容れないのですよ、アテナ。」

カノンは、どこか寂しげに見える笑顔を浮かべた。

「それほどの脅威は、どこにも存在してはならないのです。」



「カノン・・・」

アテナは、気品ある少女の美貌に、慈悲深い悲哀をたたえた。

二つに引き裂かれて生まれた魂は、互いに溶け合うことを永遠に許されない。

「・・・なんだか、哀しいですね。」



「さあ、どうでしょうか。」

カノンは、つかみどころのない透明なまなざしを向けた。

「互いに遠慮なく憎しみ合い傷つけ合うのも、同じ魂を分け合って生まれ出てき
た因縁ならではの絆なのかもしれません。」

 













金色の黄昏の光にうるむ人馬宮で。

夕焼けを照り返す黄金を身にまとい、広間にたたずむサガの姿があった。



「・・・許せ、とは言うまい。」

壁に残された宮の主のダイイング・メッセージを、奇跡のようなきらめきを放つ
琥珀の瞳で見つめながら、清涼な声でささやく。

「お前は運がなかった。なあ?アイオロス・・・」



生きとし生けるものをすべからく愛し、愛された、光り輝く正義の聖闘士。

黄金の羽根を広げて、美しく駆け抜けていった生涯は、燃えさかる太陽のように
明るくまぶしく熱く、その短い人生に触れたすべての人を魅了した。



「・・・アイオリアは、お前に良く似た快活で勇壮な戦士に育った。素行は兄に
似ず、ずいぶんと真面目なようだがな。」

貴族的な美しい白い指先が、深く刻まれた文字を、ゆっくりとなぞる。

「お前が命を賭して守った乳飲み子も、聡明でしたたかな少女に育ったぞ。」







消えた赤ん坊の行方をそれ以上追及しなかったのは、それがアイオロスのいまわ
の際の最期の願いだったから。



『死に臨んで懸命に託した至誠の英雄の願いを、どうして叶えないでいられよう
か。』

その瞬間、己の手で英雄の命の炎を消し去りながら、気高い美貌に崇高な哀しみ
の表情をたたえて、冷たい頬に清廉な涙をたった一条落とし、サガは、悲痛の声
をあげたのだった。







「私は狂っているか? アイオロス・・・」

・・・否、と自分自身で答える。

「お前と私は、誰よりも己に忠実だった。似たもの同士だったはずなのにな。欲
するものの質が違いすぎた。それだけだ。」

・・・だが、

「お前はかけがえのない盟友であったのに。・・・やるせないよ、アイオロス。
お前をこの手にかけた自分が哀れだ。お前を失った自分が、哀れだよ・・・とて
も。」



身勝手な述懐を厳かな口調で唱えながら、高潔な受難者は、冴え冴えとした切れ
長の双眸に夕日を溶かして金色に潤ませながら、形のいい美しい唇を冷たい石壁
にそっと当てた。















世界に名立たる企業グループの総帥の顔を持つアテナは、半日ほどの滞在であわ
ただしく日本に帰国した。

空港までの警護を兼ねた見送りから帰ったカノンは、スーツ姿のまま双児宮の居
室のソファに横ざまに寝転ぶなり、怜悧な瞳を閉じた。

海界と聖域を頻繁に行きかっていたための数日間の不眠不休がたたってか、さす
がのショートスリーパーも、押し寄せてくる睡魔に勝てなかった。



深い眠りに陥ろうとする朦朧とした意識の境界に、涼やかで優しいささやきがか
すかに聞こえる気がした。

『かわいそうなカノン・・・私がきっと、美しいお前を日の当たる場所に連れ出
してあげよう・・・』



それは、幼い日に、慈悲深い兄が、不遇の弟に毎夜くり返した呪文。





「・・・カノン」

ソファの肘掛にしどけなくもたれた頭を、慈しむようになでる手。



そのすべらかな指先の感触が額をすべり、そして、唇になめらかな別のぬくもり
が触れて・・・。

カノンは、ハッと目を見開いた。

「・・・なんのマネだ? サガ」

思わず低いうなり声をあげる。



サガは、触れていた唇を離して、かがんでいた身を起こすと、悠然と微笑んだ。

「あまりに無防備で幼い寝顔だったので・・・いたいけな子供の頃のお前を思い
出してしまったよ。」



「・・・・っ! ふざけるな・・・」

カノンは、物憂げに身じろぎしてソファに座りなおすと、背もたれにグッタリ頭
をもたせかけて、不機嫌な表情で天井を見上げた。



「うたた寝では体が休まるまい。寝室で寝なさい。」

サガは、乱れた蒼銀色の髪を覆いかぶらせたままの白皙を真上から見下ろして、
穏やかに言った。



カノンは、いまだに自分と同じ顔とは信じられない清廉な聖者の美貌をまじまじ
と見上げながら、ふと思い出して尋ねた。

「なあ・・・どういう魂胆があって、教皇職をすぐに継ごうとしないんだ?」



サガは、霞むような微笑を見せた。

「・・・聞きたいか?」



「ああ、聞きたいね。」

カノンは、挑むようなまなざしで答えた。



サガは、ふっとかすかに鼻先で笑ってから、

「お前にまだ双子座の黄金聖衣を譲りたくないのだ。」

と、澄んだ声で言った。



「はあ?・・・なんだそれ。」

カノンは、秀麗な片眉をつりあげて、あきれた声をあげた。

「ホントかよ・・・」



「本当だ。」



そう。双子座の聖衣は、まだ譲らない。



(お前には、自由が良く似合う。)

と、サガは、軽やかで柔軟なバランス感覚を持った弟の本質を見透かして思う。



地上と海界と冥界を行き来しながら、どこにも属さず。

誰にもとらえられない、風のように。



(聖域の厳格な戒律に縛られるのは、ずっと先でいいのだ。)

それまでは、自分が双子座の聖衣を守っていよう。他ならぬ、双子の弟のために




「・・・うさんくせーな。」

カノンは、けだるげに頭をふってから、貴族的な白い指で、顔にかかった長い絹
の髪をかきあげた。



「私を見くびるなといっただろう?」

サガは、いつになく面白そうに笑いながら、すべらかなガウンをまとった端麗な
長身を、カノンの隣のクッションに埋めた。

「私は、約束をたがえない。私は無欲だが、心から欲したものは手に入れる。」

謎めく琥珀色の輝き。



「何が言いたいのやら、さっぱりわからないね・・・」

カノンは、完璧な肢体に良く合ったダークスーツを着込んだ肩を、小さくすくめ
た。



「昔のお前は、それだけ可愛かったということだ。」

サガは、最も優れた笑顔の手本を示すかのように、にっこりと笑って見せた。



「・・・気色の悪い!」

カノンは、不快げに柳眉をしかめた。



サガは、澄ました顔で応戦する。

「昔はもっと素直だったが・・・」



「まだ言うか! この偽善者!」



「黙れ。愚弟・・・」



「うるさい、愚兄!」



美しすぎる白皙をつき合わせて埒もなく毒づきあう双子の情景は、ともすれば、
できすぎた家族の団欒の、良くある微笑ましい一場面に見えなくもなかった。







思えばそれが、最初に欲したものだったのか。

『かわいそうなカノン・・・私がきっと、美しいお前を日の当たる場所に連れ出
してあげよう・・・』

・・・誰よりも己に忠実だっただけ。



(お前に必ず、黄金の聖衣を・・・)

無欲な聖者が欲した願いは、遠大なシナリオの果てに必ず遂げられる。









END








戻りま〜す☆




一見相容れない双子、でもそれぞれの形で相手を思っていたという素敵なお話
じーんとしてしまうのです。kedama様愛してますっv