痴漢撃退大作っ戦!

 本日の仕掛け : シャアの貴婦人スタイル 







午後の執務室
重要な用件を全て終えたシャアは滑るような早さで市民から送られた手紙を読んでいた。
滞りなく次から次へと進んでいたが有る一枚を手に取るとピタリとスピードが止まる
「・・・・・むう」
そう呟いた彼は、秘書のナナイへ連絡し執務室を後にする
向かったのは私室の一つであるパウダールームだった。




***




「で? そのイカれた格好は何なんです?大尉。」

総帥や大佐と呼ばれる彼を、唯一クワトロ大尉と呼ぶ青年
カミーユはシャアを見上げると嫌そうに眉を潜めてそう言った。
隣に立つ赤毛の大尉もうさんくさそうに彼を見た。

「おとり捜査だよ。困っている市民に率先して対処する、私は指導者の鏡だな。」
「「おとり捜査・・・」」
「うむ。今日ここに痴漢が出て困っているという手紙が届いた」

シャアが言うココとはコロニースイートウォーターのリニアトレインの事である。
今3人が立っているのはトレインのステーションど真ん中で、
午後にいきなり呼び出されたカミーユとアムロはそこでとんでもない光景をまのあたりにした所だ。
その・・・とんでもない光景というヤツは・・・そう・・アレだ。

「シャア、気持ちは分かった。だけど人には出来ることと出来ないことがあるものなんだ。」

アムロはそう言って痛むこめかみを押さえる。
先程からララァ(幽霊?)がうるさくてかなわない(嬉しいのか嬉しく無いのかは不明)のと、
シャアのがたいの良い女装が、昔の淡い恋心の人物と微妙に重なって・・・イタかった・・。

シャアは何処から調達したのかセイラさん(ハマーン??)の様なカツラ(金髪)を被り、
真っ赤なスリットの入ったカクテルドレス、これまた真っ赤なハイヒール(なのでめちゃ長身!)
そして場違いな事この上ない、つばの大きい派手な帽子。・・・旧世紀の貴婦人スタイル!

これで何をしようと言うのだか・・・。
目立つだろうが、はっきり言って痴漢はビビって寄りつきもしないだろう。
そう思ってじっと見ていたら、何を勘違いしたのかシャアはおもむろに胸を揺らして見せた。

(・・・・・・コイツッ!)

・・・なんとシャアの胸には特殊な素材で創られているだろう、人工胸がたわわに揺れていた。
艶、張り、多分質感も申し分なく本物に近いだろう・・・。よく見ればすね毛までキチンと処理してる。
芸の細かさにあきれかえっていると、シャアが小さな声で ”後でこのまま遊んでみるかい?”と囁いた。
イヤらしい声だ。
俺はぶん殴りたい気持ちを必死で我慢した。

カミーユもその意見に激しく頷いてアムロよりもずっと辛辣な意見を述べたがまったく聞く耳持たずのシャアは

「やってみるさ」

と息巻いて二人を連れトレインへと乗り込んだ。




***




”いいかね君たち。賊が接触したのを確認したらその超高性能マイクロモニターで証拠を取ってくれたまえよ”

そう言ってシャアは2人と距離を取った。
束の間カミーユとアムロは離れたことでほっと息をついたが、めちゃくちゃに混み出す車内に息を飲む。
そう、時刻は丁度帰宅ラッシュを向かえていてアムロもカミーユももちろんシャアもぎゅうぎゅうと押された。
・・・だが、2人が息を飲んだのはそんな事ではない。
進んでいく列車内が次第にざわめきで満ちていくのが分かった。
そう、シャアの存在に乗客が気付きだしたのだ!
ここにいるのはスイートウォーターの市民だ。
総帥の顔を、いくら変装(女装)したからといって見間違える筈はない。
そう思って今更ながらに慌てたりうろたえたりする2人をよそにざわつきはいっそう高まった。

・・・・その時・・・・!

シャアの前に人だかりが道を開いた
その先には小さな老婆が赤い花を手に、シャアに挨拶をする。

((わあぁ・・・!もうダメだ!!))


曲がりなりにも付き合いの長い2人は、シャアのこれからの政治生命を思い瞬間胸を痛めた。
が、次第に響き渡る喝采とメロディに、あんぐりと口を開けたままになる

星の光に 思いをかけて
熱い銀河を 胸に抱けば
夢はいつしか この手に届く

シャアズ ビリービング アワズプレイ!
シャアズ ビリービング アワズプレイ!


湧き上がる熱狂に冷めていく2人
心の中には”ここには俺たちだけ”という共通のブリザードが吹き荒れていた。
ぼんやりとした2人の視線の先には、和やかに振る舞うシャアの姿
おもむろにカミーユが声を出した。

「アムロさん、俺たちいったい何のためにここにいるんでしたっけ・・・」
「言うなよ、カミーユ。むなしくなるだけだろ・・・?」
「それにしても・・・あのヒト、いい面の皮してますよね・・・」
「ああ、思い出したよカミーユ。政治家に標準装備されてなきゃならないもの」
「何です?」
「厚顔無恥。連邦の政治家達もみんなそうだったなぁ・・」
「へぇ・・・そうなんですか。」


何故だか悲しみでいっぱいになったカミーユとアムロは、
目に涙を浮かべながらその歌を口ずさんで帰路へと向かう。

シャアズ ビリービング アワズプレイ・・・

リニアトレインが総帥官邸近くの駅で止まると2人は無言で車に乗った。



初日、痴漢捕獲作戦 失敗に終わる。




(END)



仕掛けの結果 : 賊は姿も見せず、代わりにお祭り騒ぎになる。 でした!
本当に憐れなのは、こんな総帥が収めるコロニーの市民なのでは?と思う方もいるかも知れませんが
いやいや、こんな風にバカ騒ぎ出来るのも、総帥が上手く治めているお陰ということで…
ナナイさんの血管がぶち切れるのはそう遠い日ではないと思う。



G TOPへ