オール・イズ・ホワイト












「ん、メインエンジンはこれでいいと思う。・・・あとは機動性を上げたいんだが・・・」


新しい機体の仮想テストを終えたアムロ大尉は、汗一つかいていない涼しげな顔で驚異的なスコアを叩き出すと
すぐさま横に控えていたエンジニアに相談を始めた
大尉はパイロットなのに連邦の第一線で働いてる技術士官にまったくひけを取らない知識と経験を持っている。
それもそうか、なんてったって彼は15才で連邦初のMS RX−78のパイロットをやっていたのだから。
しばらく様子を眺めながら歩いていると 最初は面食らっていた技術士官も、
やがて要領とまとを得た質問と要求に応えだし次第に熱の入った討論になる。
こうなると長いのはよく承知しているので近場に腰を据えて抱えていた書類に目を通す事にする
その合間にちらりと彼を見た瞬間に丁度目が合って、彼がちょっとすまなそうな顔でにこりと微笑んだ


・・・・この、笑顔がクセモノなのだ。


私をヤキモキさせたり、そして私をドキドキと舞い上がらせる微笑み
それは もうすぐ30になる男の、
しかも歴戦の勇士と呼ばれる男性には不似合いなほど優しげで暖かな笑顔。


「アムロ大尉って女殺しの素質、あるかも・・・」


ぽつりと呟いた言葉はドッグの喧噪にかき消えてしまったが
そのニュアンスには幸せが混じっているなぁと我ながら思った。
なぜならそんな大尉の誕生日をこれから一緒に過ごすのは 誰でもない、自分なのだから。



「チェーン すまなかった、随分と待たせてしまっただろ?」
「いいえ、書類片づけてましたから大丈夫です。それより大尉、レストラン 遅刻しちゃいますよ?」
「あ!そうか」

そう言うとアムロ大尉はあわててエレカに乗り込み 私を乗せて猛スピードで走り出す。
検問所でも遠くから声を掛けてバーをぎりぎりでかわし
ドックを飛び出すと嬉しそうに先程話していたMSの話を始める。
(まるで子供みたいだなぁ)
大尉のまたひとつ見つけた魅力にこっそりと喜んでいると
「なんだい?チェーン」
といぶかしんで私をのぞき込む

(お、お願いだからエレカをアクセル全開で走らせてよそ見はしないでっ!!)

前にアストナージさんが
”ニュータイプって後ろにも目があるようなもんなんだ”
なんて言ってたのが身にしみて分かった。
アムロはよそ見をしながら平気でハンドルを切るし
MSのスピードに比べれば、なんて言ったっていくらなんでもコレは異常だ!
だけど私の心配をよそにエレカは予約の時間に難なく間に合い、
私たちは楽しいひとときを過ごせた。



***



アムロと自分との関係は随分と曖昧だ。
こうして時たまデートしたり、じゃれ合ってキスして抱き合ったりもするけど
それは何となく始まってこうして続いてるだけのような感じもする。
自分はもちろんアムロだけだし、アムロも意外に浮いた噂が一つもない。
だけれど何か引っかかるような、よく分からない違和感もある。
単に恋愛体質じゃ無いだけ?・・・それとも誰か好きな人がいるのか・・・?
それを確かめるのは正直恐くて、いまだ私は
『私たちって恋人ですか?』って聞く事が出来ない



「・・・・なんだけど。・・ん? チェーン??」
「あ!大丈夫です!それはですね、ミノフスキー粒子が・・・」



アムロと私はお休みの時なんかは家でごろごろしあう事が多い。
日曜日は決まって何処にも出かけず、抱き合ったり MSの話をしたりするけれど・・・
・・・はっきり言って後の方の割合が格段に高い!
だいたい食事の合間にMSの話をすると設計図を引っ張り出すまでに至り
そのまま一日を消化することはままある事で。
・・・もしかしたらアムロは私よりも誰よりもMSを愛してるのかもしれない?
アムロに彼氏とか彼女とか似合わない気もするし・・・



ぼんやりそんな事を考えていたらデジタル時計が12時を知らせるチャイムを鳴らした
私はテーブルに置かれたシャンパングラスを持つとアムロにそっと傾ける。


「お誕生日おめでとうアムロ」


アムロはどこかはにかむような、
それからちょっと寂しそうな苦そうなそんな表情を一瞬覗かせてから
「ありがとう」とグラスを合わせた。

彼の遠い目が自分の知らない誰かを思っているかのようで、
それがたまらなくてすぐさまMSの話題を振った。
今日一日だけは私の方を見ていてほしいから・・・。



「そう言えばガンダムのカラーリング、どんなのを考えているんです?」
「・・・ん?ああ、やっぱり白かなぁ」
「ガンダムって言えば白ですもんね。じゃあやっぱり白をベースにして・・」
「いや。全部白でいいと思ってる。他のMSと被らないはずだし・・・」
「ふふ、アムロってけっこう目立ちたがりですか?」
「いってくれるなぁ、だって隊長機だし目立った方がいいんだよ・・・」


あいつが見つけやすいように・・・


ぼそりと呟かれた言葉が聞き取れず聞き返したが何でもないさとアムロがシャンパンを煽った。
ちょっとした会話の合間が、私の本音をするりと引き出す

「アムロ、貴方とこの日を一緒に過ごせて 私、幸せよ」
「おおげさだよ、チェーン。嬉しいのは僕の方だよ 恋人と誕生日が過ごせてとても幸せだ」

一瞬言われた言葉が頭を通り過ぎて、それから戻ってきて、聞き間違いかと不安になった。
そんな私を見たアムロは勘違いして
「もしかして俺だけがそう思ってた・・・?」と問うてきた。
あわてて違うと首を振り”だって言わなかったし・・・”と蚊の鳴くような声を出す。

「俺、言わなかったのか・・・ゴメン、チェーン。 ・・・俺と付き合ってもらえるかな?」
「・・・・・・やだ、アムロ・・・ううん、YESです・・・」



思わぬ嬉しい告白に涙腺がゆるんでそれだけ言うのがやっとだった。
嬉しくて嬉しくてそれを伝えると彼が微笑んでそれがまた幸せで・・・
雪崩れるようにベットで抱き合い、疲れるとお休みのキスをして眠った。
アムロの誕生日なのに私ばかり幸せでずるいような、悪いような気がした。


「お休みなさい 私の白い悪魔さん」
「ふふ、お休み チェーン」


心地よい眠りはすぐに訪れた
明日は日曜日、いつものようなゆったりとした時間があすから、より幸福に感じられる事だろう
私たちはこの日から、彼氏と彼女になったのだから。












***













チェーンの穏やかな寝息を確認すると、俺は静かにベッドをたった。
リビングの端末を窓際で開きメールをチェックする

(・・・・やはり来ていたか )

文字にすばやく目を通し終わるとメールを削除する。
どうせ追跡しても無駄なことは嫌になるほど知っているのだ
毎年この時期になると何を思っているのか送られてくるお決まりの文句とささやかな言葉
今日の昼頃には俺宛に欲しがっているICチップなんかが届く事だろう。

ふざけてやがる

こちらのことが筒抜けになっている現状に歯がみする気持ちと”やるな”という感嘆が入り交じってしまう。
・・・おそらく俺たちはぶつかり合い殺し合うだろう
それなのにこういう戯れが続いてることにおかしな安堵を感じることが
”ふざけてやがる”
という認識になって浮かんでくるのだ。



アムロはリビングの棚の奥からブランデーを取り出してグラスに空けると
窓の外を見つめながら氷を揺らした。
月面からは碧く輝く地球が見渡せる



「早く俺を殺しに来い、シャア・アズナブル」



きっとシャアはすばらしいMSで俺を殺しに来る事だろう。
そうだな、さっきのチェーンの話じゃないが やはり色は赤だろうか?それとも金?
もしかしたら度肝を抜くようなカラーリングかもしれない。

俺は、 ただ白ければいい。

唯一の白い機体を目にすれば、ヤツはきっと分かるはずだ
一年戦争さながらの”白い悪魔”ってヤツを連想するだろう。



そこで、まだ1年戦争なんて考えてるのかと自分を笑う。
・・・・古い話だ。
もう随分も前のことを引きずっているのかと自分を冷笑してみるのだけど、
あの時から唯一変わらないものがあったなと思い直す。
そう、だから俺たちはぶつかり合わなきゃいけないんだ。



「早く殺しに来いよ、シャア。 お前を殺せるのは俺だけだ」



まだ眠る気持ちにはなれなくてブランデーをゆくっりと口に含む
それはかつてそいつと飲んだ銘柄の筈なのに、ひどく苦い味がした。








***









二人はまだ知らない


お互いが同じ思いを抱えて虚空を眺めることを






二人はまだ知らない


たとえそれが憎悪に彩られた感情でも 
殺意を憶える執着でも









それが”愛”にとても似ているということを。



















ハッピーバースデイアムロ!
これを報われない女性、チェーンに言わせてみました。
チェーン、大変よ!?アムロ大尉に赤い影!!
SCALETと対のお話で考えていたヤツなのですが随分長くなちゃった。
あ、お酒はアウドムラのクワトロ大尉と乾杯したヤツとか思って書いたけどブランデーで良かったっけか・・・



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