「あ・・・!俺も手伝います!」
学校を終えて走って目的地へたどり着いたカミーユはそこで重い荷物を抱えているシャアを目にした。
自分の身の丈より大きい、木で出来た古そうな何か。
シャアは持ちずらそうに抱えて家の中へと運び込もうとしている。
足元をちょこちょこ小走りしながらまとわりついてる猫のアムロが、危なっかしいしなんだか可笑しい。
シャアに端を持つと伝え、アムロに「危ないからアムロは中!」と声を出すと、
それだけでアムロは意図を解し店の中へ入っていった。
「すまない 助かったよ。今コーヒーを入れてこよう」
店の奥にある作業部屋なのだろうか?
やけにさっぱりとした部屋の中にそれを運ぶと、シャアさんは馴れた感じでキッチンに向かう。
もちろん、アムロに“怪我はなかったかい?”と甘い声をかけてから。
カミーユがここに入り浸って1週間。何だかくすぐったい時間を過ごしている。
別に何をするわけじゃないけど、ここはとても居心地がいい
家でもない、学校でもない、自分だけの秘密の空間。
部屋の外からコーヒーのいい香りが漂ってきた
シャアさんは凝り性でコーヒーの豆から入れ方まですごく気を使う人だ。
それを楽しみにしながら部屋の中をぐるりと見回す。
棚の奥には2Fへ続いているだろう階段
壁に付けた長い作業台に工具らしき品々
点々と置かれている丸椅子と、窓際に小さな机が一つ。
興味を引かれて歩き出す。
「・・・・・・・・?・・・・誰?」
机と、机の上の本棚の間
そこには一人の人間の写真が所狭しと貼ってある。
・・・・・・しかも、男。 彼だけが写っている無数の写真。
その下に、映像を記録するチップも無造作に散らばっている。
もしかして・・・これも・・・彼なのだろうか?
「見られてしまったか。」
ぎくーーーーっ!と身体を強ばらせて振り返ると笑われた。
”そんなに驚くこともないだろう”とコーヒーを手渡し苦笑を浮かべるシャアさん。
「彼を・・・まだ見てない?」
それを問われて”彼”とは写真の人だと悟り首を振った。
つまり、よくここに出入りしてる人なのだろうか。
「まだ、合ってませんね。・・・・・」
続けてしまいそうな言葉を飲み込むためにコーヒーを口に付ける。
暖かいコーヒーはほのかな酸味を舌に広げ、芳醇な香りで鼻孔をくすぐる
シャアさんは飲み込んだ言葉を見つけたようだがそれには沈黙した。
自分もコーヒーに口を付け、ほうとため息をついて
「そのうち君も合うだろう」
とその話題を締めくくった。
ちなみに”・・・・”の飲み込んだ言葉というのは、”どういうご関係ですか?”だ。
シャアさんはコーヒーを置くと先程運んだ物をゆっくりと眺め、軽く弄りだした
それは、アンティークの大きな古時計だった。
「壊れてるんですか?」
「それを今から調べるところだ」
アムロはさっきから姿を見せない。何処かへ遊びに行ってしまったようだ。
シャアさんは古時計を熱心に調べ、中の構造を見るため蓋を開けた。
・・・・随分複雑な作りのようだ。
俺もそれに興味が沸いてシャアさんを手伝った
2人であーだこーだ言いながら分解し組み立てる。
・・・が、どうしても文字盤のアクションが起こらない。
「コレは・・・無理だな。・・・アムロに頼むしかないな・・・」
「・・・・は??・・・アムロ???」
猫のアムロに何を頼むって?と目で問うとシャアは一瞬分からないという顔をしたが
カミーユの言いたいことを悟ると”ああ・・”といった感じで口を開いた
「ああ、すまない。・・・・そのアムロでは・・・無い、・・のだよ。」
そう言うとシャアは先程の机を指さした。
「え?・・・・もしかして、あの写真のヒト アムロっていう・・名前?」
「鋭いね、その通りだ。彼はアムロだ」
「・・・・・・・猫も、・・・アムロですよね?」
「ああ。同じ名だな」
にっこりと笑う彼に”はぁぁ〜〜〜”とため息が漏れる。
つまり・・・・そう言うことだ。
猫に”アムロ”という名前を付けて猫かわいがりするのも。
その彼の写真(多分映像も)をあんなふうに飾ったりするのも。
別に・・・同姓同士の恋愛に興味も無いが、嫌悪もしない
確かに・・・こんなすごい美形なのに女っ気が無いのも頷ける
だけど
・・・・ものには、限度って奴があってもいいと思う。
「アンタ・・・・」
「・・・・・・・?・・・」
「アンタ、おかしいんじゃないですか・・・?」
するとシャアさんは軽やかにはははと笑った。
「昔、彼にも言われたな」
そう言ってまたひとしきり笑った。
カミーユは、もう一度”はぁ”とため息を付くと置いていたコーヒーを一気に煽った
コーヒーは冷めていて、ちょっと苦い味がした。
(END)
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