「・・・IF」 PIECE A
目を覚ますと真っ暗ですすけた景色が広がっている。すえた匂いが鼻をつく ここはひどく寒い・・・
纏っていたぼろ布をかき集めてなんとか暖まろうとするが無駄に終わる。
もぞもぞ動き出した僕に気がついて、隣で寝ていた少年が屈託のない笑顔で僕に笑いかける
・・・目に鮮やかな金髪が何かを思い出させようとするが、何も思い出させはしない。
「起きたの?寒いんでしょ、あっちでみんながたき火しているから暖まりにいこうよ。」
少年に連れられてぼろ布を身体にくるめたまま歩き出す。
真っ黒に汚れた素足が配管の冷たい水に触れる度じん・・・とした寒さが体を這い昇ってくる。
・・・この冷たさは正に”死”そのものだ。
大きな排水溝の通路を渡って小さな排水溝に入ると見慣れた顔ぶれの少年達が
ゴミクズを燃やして暖をとっていた。
それに加わり、自分たちも何とか体を温める。
金髪の少年が僕を気遣って分けて貰ったスープを僕の口へと運んだ。
『〜〜がマハに捕まっちまった。あの区画は今お巡り達がうじゃうじゃいるから危なくなってる!』
『この雪、いつまで降り続くのかな・・・?こんなんじゃ地上に出ても、食べ物がうまく探せないよ』
『俺、噂で聞いたんだけど、この排水溝に鍵をして俺たちを追い出そうって作戦があるって。その時に火を付けるって聞いた!』
『・・・え?本当に?でもそしたらどうする?この時期にここを追い出されたら行くとこないぜ?』
『そん時はそん時だろ!?奴らに思いっきり噛みついてやるさっ!』
リーダー格らしき少年がスンと鼻を鳴らしてそう息巻いた。それから金髪の少年に向かって声をかける
「おい、そいつどうなんだ?いざという時にちゃんと逃げれるのか?」
「ん?ハヤトの事?うん、大丈夫!まだ喋れないみたいだけどちゃんと逃げれるよ、ね?ハヤト」
僕に何か話しかけられたみたいだったけど、よく分からない。
僕の視線は暖を取る少年達の輪から少し外れた、数人で集まっている少年達へと向かっていた。
彼らはペンの様なモノを身体に押し当てた後、ふらふらと頭をゆらしへらへらと笑い出す。
僕の視線に気付いた金髪の少年が、僕の顔を正面に向けて耳元にこっそりと囁いた
「・・・決して、彼らのようになってはダメだよ?ハヤト。
もし彼らに誘われても”NO”っていうんだ。分かったかい?」
よくわからなかった。・・・でも、彼の瞳が必死さを伝えて僕はウンと頷いた。
ペンを身体に当てては・・・ダメ。
僕の頷きに彼は安心したようにため息をついて、くしゃりとした僕の赤毛をなで回した。
彼のブルーの瞳が、すこし涙でうるんでいる。
・・・・・・あれ?
・・・・・・・・・・・・あれ?何だろう?・・・何故だろう?
彼の瞳はとてもキレイなのに、何だか悲しくなってきた・・・
何故だろう?なぜだろう??
・・・・ぼくはこの蒼い瞳を見たことがある?
いくら考えてもよく分からない。頭がぐるぐるぐるぐるするばかりだ・・・
でも、胸の奥がぎゅうっとして・・・あたまの何処かが、カッ と熱くなった。
「・・・・シャア・・・」
「あれ?ハヤト、今何か言った?・・・・・ハヤト、ねえ、どうして泣いているの?」
分からない、分からない・・・解らないんだ!
だけれど目からは、幾筋もの塩辛い水が溢れては頬を伝い落ちていった。