↓市川戦後の空白の6年間を勝手に妄想。











成り行きでやったヤクザ共との勝負以降、アカギの回りはうるさくてかなわない
あんまりにも五月蠅くなって東京を出るが、
もともと頓着をしなかった金などはすぐに消え、仕事を求めて舞い戻る。
丁度あの日から1年が過ぎていた。


(・・・何故、甘んじていけるのだろう?)


アカギのような者を雇う仕事の給料など雀の涙ほどで
馬鹿ばかしさにおもわず笑みがこぼれた。
どの職場も同じような人間が自分より弱い奴から吸い上げようとあがいては
束の間の優越感にひたって笑う。結局そいつも吸い上げられているのに。
社会はピラミッドの形をしている。社会の原子は人間だ。
三角の底辺は人間の醜悪さをひどく際だたせるが
そこに本質があるのだとアカギは思う
人間は人間を欺き、裏切り、出し抜こうとする。
あわれなのは下の下にいる人間で、叩かれ殴られ取り上げられる。
だけれど彼らは日々を真っ直ぐと歩いたりもする
アカギには良く分からない。不思議でしようがない。
だからだろうか?見ていて飽きはしない。


「おい、新入りぃ ちょっとつままねえか?」
「ん・・ああ・・やめときますよ。・・・用があるんでね・・」


案の定の誘い。適当に断ってぶらりと町に出る。
ヌルイ手合いとやってもただただ退屈なだけで
しかも同じ職場となればめんどくさいことこの上ない。
適当に腹を満たし、タバコを吸って退屈を紛らわせて雀荘を覗く
ごくたまにだがギャンブルが出来ることもあるが今日は出会わず。
適当に打って小銭を手にする。
そんないつもの帰り道に懐かしい風体を目にした
ヤクザの黒塗りに送られた所 杖を持った食えないじじぃ。

(逃がした魚は大きかったよ・・・市川さん)

そっと後を付ける。久方ぶりに心がちりちりと騒いだ。






***






「猫がいっぴきいやがるな」




小さな一軒家 縁側に腰掛けた市川がそう言った。
やはり気付いていたのだろう
盲のクセにアカギを真っ直ぐに見つめ、良く聞こえるようにそう言った。
ずずず・・・と茶をすすると市川は余裕の笑みでアカギを見据える
つまんねぇな・・とアカギはため息をついて
「にゃあご」と気のない声まねをひとつ
かりり・・と身を隠していた木の幹を引っ掻いた。


「ぶっ!・・・アカギよぉ、てめえでも不細工なことがあるんだなぁ」
「・・・うるさいよ市川さん、俺にも茶ァ 入れてください」
「欲しきゃあ、勝手に入れるんだな。盲に雑事をやらせるな」
「はいはい・・・勝手にいただきますよ」


盆に用意されていたもう一つの湯飲みにチッとひとつ悪態をついて
鉄の急須を傾ける。今日は満月のせいかちいさな庭が良く見渡せた


「アカギ てめえの話を少しも聞かない。・・・こっちには来ないのか?」
「興味ない。ヤー公共とつるんで楽しいことなどひとつもない」
「フフフ、手厳しいな・・。ではアカギ君、君は今何をしているのかね?」
「何も・・・食って寝てつまんねえ仕事をしてる。久しぶりにアンタを見かけた。ギャンブルがしたい。」


その時市川が奇妙な表情でアカギを振り向いた
アカギも市川を覗いてその奇妙な表情の理由を探る


「・・・アカギよお、無茶を言うんじゃねえ、俺とお前の勝負はもう付いた。それに、それこそこっちに来ちまえば、いくらでもできるじゃねえか 勝負が」
「ククク・・足りないんだよ、市川さん。他人の金じゃ震えなど来ない。破滅なんかしないのさ。それこそアンタに勝ったぐらいだって、いいわけが立っちまう」
「・・いヤな野郎だ。では何で仕事なんかしている?お前の年だ、ろくな仕事じゃなかろう。お前ほどの腕があれば、要領よくさえすれば仕事なんぞせずに暮らしていける筈だが?酔狂がお好みかい?アカギよ」
「ははは、・・・そうかもしんねぇ 不思議なんだ、色々と・・・」
「何が」
「どうして退屈しないのかなってさ。馬鹿をくり返すのかなってね。」
「・・・フフフ、人は愚かで浅はかだと?」
「さあね・・・でもそんなヤツの中にときどき変わったやつがいるのさ。そいつを見るのが面白くてね。ヤー公達とつるめばこれが見れなくなっちまう。」
「成る程・・・鬼の子は人間が好きかい」
「知らない。ただ、願いとか思いとか光る瞬間があってさ、それがキレイだと思う。・・・・それと同時に刈り取ってしまいたと思う。願いや思いを全部。」
「・・・クククッ・・・!さすが鬼の子、因果なことだ」
「俺も、人間ってことさ。・・・それに今は猫だったっけ? じゃあ、ま、勝負も出来ないみたいだし、帰ります。」
「ああ、帰んな。ここにお前が来る理由は何もねぇ。・・・なぁ・・アカギ・・」


アカギは庭にある小さな池で足を止めている。
何故だかシャツを脱ぎ出す音がした。


「アカギ・・早くこっちへ来い。お前がどう思おうといずれこちらに来ることになる。お前が、どんなに望んでも人にはなれんさ。
一緒にいることは不可能だ・・・・・ん?・・・・アカギ、てめぇ・・・何してやがる!?」


池からばしゃばしゃと音がする。
小さな池にはどこぞの組長が寄越したウン万円の鯉が一匹
どうやらアカギは鯉を濡れたシャツにくるんだようだ。


「こんの、泥棒猫が・・・そいつをどうするつもりだ?アカギ・・」
「はははっ・・・さすがに食いはしない。川にちょっと放してくる」
「なんでそんな事をする?」
「嫌だね、盲に鯉なんてやるから。・・・コイツも俺も、自由が一番いい」



そういうことさ、とアカギは呟き最後ににゃあと鳴いた。
・・・いや、先程とはまったく異なっていたので
近くの猫がたまたま鳴き声を上げたのかも知れない。



しばらくしてからアカギは何かと家に居着くようになった。
なれ合うすれすれの距離感。
それはまるで野良猫との生活。








市赤開眼!・・・こんな物を書いてみたり。
自分実は市赤ってよく分かりませんでしたが、ある方の小説読んで あっ!いいかも・・・!となりました。
まぁ・・・これじゃ、市と赤ってかんじですがね。
鯉の事は昔何かで聞いたか読んだかで知ったのですが、川に放すんだそうです。
色々な理由があるのだろうけど、色がぼやけたり、体調を整える為に。
ホントかちょっとあやしいんでうわさ話程度の認識でお願いしますね。
(だって放した鯉どうやって回収するのさとか、釣られちゃうんじゃとかね)


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